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今の米国株相場は高いのか低いのか?

ポピー

新聞やニュースでS&P 500のような株価指数を見ながら、果たして今の株相場が高いのか、低いのかといった疑問は誰もが持っていると思う。今日はそれにフォーカス。

以前のブログで、Aple社の株価が高いの低いのかという話で、PE Ratioを基準に持ち出したことがある。PE Ratioは、その会社の株価を、その会社の一株辺りの年間収益で割った数。つまり、株価がその会社のその時点での収益(Earnings, Profits)の何年分に相当するかを表す。

実はアメリカの代表的相場指数であるS&P500にもPE Ratioがある。これは、S&P 500に含まれる大手企業500社の総合株価と総合収益の割合。このPE Ratioが高いと、ファンダメンタルズに比例して株価が高いといった解釈をする。

2012年5月25日現在のS&P500のPE Ratioは14.85(アップデートはこちらで)。歴史的にみるとこのPE Ratioの平均値は15〜16あたりなので、これだけを見るとまあ標準的な相場。

しかし、企業の収益は変動が激しく、S&P500 PE Ratioは分母である収益の上下に敏感に反応する。それでは指数はあまり役に立たないということで、イェール大のシラー教授(毎月末ケース・シラー住宅価格指数が発表される時にテレビに出てくる、長い顔のナヨっとした学者さん。様々な指数の改善に熱心。)は、過去10年の企業収益の平均値を分母に使うことを奨励している。

この収益平均値を使ったS&P 500 Shiller PE RatioはCAPE(Cyclically Adjusted PE Ratio)とも呼ばれ、数字・チャートはこちら見ることができる。

2012年5月25日現在のShiller PE Ratioは21.17。歴史的平均値16から見るとちょっと高め。

現在の米国企業収益は決して悪くない。歴史的に見て高いほうと言える(S&P500の収益チャートはこちら)。ただ、企業収益が2008~2009年に一時急激に落ち込んだので、それが分母を引き下げて、Shiller PE Ratioを引き上げている。

Shiller PE Ratioの130年のチャートを見ると、このPE Ratioは、平均値を上回ったり下回ったりすることはあるものの、長い目で見るといずれは歴史的平均値16辺りに戻ってくる傾向がある。平均への回帰(Mean Reversion)ってやつですかね(これにも色々異論があり、詳しくはこちら)。

ドットコム・バブルのピーク1999年にはこのShiller PE Ratioは最高値の44に達した。日本でもバブルピークの1990年には日経平均のPE Ratioが60近くに達したという。そういったピークには必ず「この高値レベルがこれからの標準である」といった理屈をゴネル人が出てくるのだが、もちろん、株価はその後急落して、PE Ratioもガクッと落ちた。株相場も企業収益を無視して延々と上がるわけにはいかないという歴史的逸話。

逆に1970年代は株相場が長く低迷して、Shiller PE Ratioが10を下回った1979年には、Businessweek誌が『株の終焉(The Death of Equities)』という表紙タイトルで「株はもうだめ」といった内容の有名な記事を書いている(ここで読める)。しかし、米国株市場はは3年後の1982年から長く派手なBull Marketを開始する。

楽観家(Bullさん達)が現在のShiller PE Ratio21.17を見ると、これから分母の平均企業収益がどんどん伸びてこのPE Ratioを支えるといった考えをする。悲観家(Bearさん達)が同じ数字を見ると、いや反対に分子の株価が落ちてこのPE Ratioを歴史的平均に近づけるだろうといった見方をする。

Shiller PE Ratioのチャートでもうひとつ観察しておきたいのは、歴史的平均値16を上回る期間が20年かそれ以上続くこともあれば、平均値を下回る期間が同様に長く続くこともある。Shiller PE Ratioにしても超長期の大まかな目安にしかすぎず、短期の相場予測には役に立たない。今のPE Ratioが歴史的平均値を多少上回るからって、明日・来月・来年・10年後・20年後にそれが是正されるかどうかも分からない。

また、「長期的に見たら株は上がる」という予測も、このチャートの大波のような超長期の話であり、ガクッと下がった株価が上がるのをずっと待っている間に自分の寿命が尽きちゃう可能性もある。In the long-run, we are all dead. とケインズ先生もおっしゃられた。

好むと好むに関わらず、株の投資リスクというのはそういうものだし、そのリスクとどう上手く付き合うかが、ファイナンスの大きな課題でもある。

Nobu 2012/05/29(火) - 22:13

ポピーさん、とても面白く楽しみながら読ませてもらいました。そうなんですよね、自分の生きている間に株なり債券なり、自分が投資しているものがどうなるかで自分の生活が大きく変わってしまいますよね。平均値とか長期的なトレンドとかはあまり助けにならない、ということが最近やっと分かってきました。今回のポピーさんの記事はそれをうまく指標も使って説明していて、よく理解できました。

ポピー 2012/05/30(水) - 13:37

Nobuさん、コメントありがとうございます。共感していただいて嬉しいです。

ベビーブーマーがリタイアメントに達してきたせいか、「株価が落下して自分が生きてる間に回復しなかったらどうするの?」といった疑問も色んな所で聞くようになりました。ファイナンスの業界も学界も、そういった疑問に向かい合い答えていく過程で、色々成長していけるんじゃないかと思います。

久美(ゲスト) 2012/05/30(水) - 15:50

ポピーさん、興味深いお話ありがとうございます。

義理両親がベビー・ブーマーなのですが、やはりリタイアメント・ファンドが下がっている(というか元本割れしている)ようで、ファイナンシャル・アドバイザーに相談しても、「きっと上がるから、そのまま持っているように。」と言われたそうです。

個人的にはリタイアメント・ファンドは数十年かけて使うので、まだ回復するチャンス?があるように思いますが、529などのカレッジセービング・ファンドは使う年数が限られており、丁度進学の時期に市場が低迷していれば、大変ですよね。

例のFacebook株ですが、10代の女の子が大学進学費用をすべて投資したという記事を読みました。Risk allocationとAsset diversificationの重要性を再認識させられました。

ポピー 2012/05/30(水) - 23:35

久美さん、面倒な話を読んでいただいてありがとうございます。

リタイアメント近い年齢層には切実な問題ですよね。でも、最初からちゃんと投資プランがあるなら、下手に動かすよりもそれを続けていく方が良いのかもしれません。

Facebookを買った人にはちょっと痛い教訓だったみたいですね。私もFacebook IPO株を買うのがなぜリスキーなのか甥っ子に説明するのに苦労しました。

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