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長期リターン = 初期配当利回り + 配当成長率の式について

数年前に新板が出たのを機にA Random Walk Down Wall Streetを再読中(といっても最初に読んだのは2002年で、かなりの部分を忘れているが)。その13章に、株式の理論長期リターンを示す以下の公式が挙げられていた:

  長期リターン = 初期配当利回り + 配当成長率

一瞬まあそんなものかと思って読み流しそうになったのだが、少しよく考えてみるとどうしてこういう計算になるのかは(筆者には)どうも自明でない。一度気になりじめると夜も眠れないので、まじめに調べたり自分で計算してみたりして、それなりに納得のいきそうな説明にたどり着いた。以下はその記録としてのメモ。

まず、上記の公式は、「株式の価値(つまり株価)は、それを永遠に保有したと仮定したときの将来の配当をそれぞれ現在価値に割り引いてそれをすべて足したもの」であるという説にもとづいている(この説自体が妥当かという議論は別途あるだろうが、株価の理論値としては比較的よく持ち出される説なので、それはここではいいことにしよう)。また、ここでは、この会社の利益はすべて配当の形で株主に即時還元されるという単純化を適用している。現実的には、企業は利益の一部を留保して将来事業に投資したりする(それどころか配当をまったく出さない会社も少なくない)ので、この単純化は実際の企業にそのままあてはめることはできないが、超長期でモデルを考える場合は、内部留保された利益もいずれは何らかの形で株主に還元されるはずなので、そのすべてが配当として(しかも即時に)実現されると考えても全体の計算は合う、という理屈になっている。

一方、ここで用いる割引率(rとする)は、この株式から期待される超長期のリターンそのものだと考えることができる。N年後の配当Dnの割引現在価値Xは、Xを利回りrでN年運用したらDnになるような値として計算されるが、このDnは当該株式の保有による運用結果の株主利益であるから、株主還元がすべて配当であるという仮定とあわせて、結局この株式の期待リターンをrとするのが妥当だと考えられる。

ここで、さらに話を簡単にするために、ある年のはじめにある会社の株式を買ったとして、その配当が年一回、年末に出るというケースを考えてみる。初期配当をD、長期リターン(=割引率)をrとすると、その年の年末に出る配当Dの購入時点での価値は1年分のリターンで割り引いたD/(1+r)。配当の成長率をgとすると、その次の年の配当の額はD*(1+g)、これを2年分のリターンで割り引いた現在価値はD*(1+g)/(1+r)^2。以下同様に計算し、株価(Pとする)の理論値を求める式にあてはめると以下のようになる:

  P = D/(1+r)
      + D*(1+g)/(1+r)^2
      + D*(1+g)^2/(1+r)^3
      ...
      + D*(1+g)^n/(1+r)^(n+1)
      ...

両辺に1+rをかけて整理すると、

  (1+r)P = D + D*(1+g)/(1+r)
             + D*((1+g)/(1+r))^2
           ...
             + D*((1+g)/(1+r))^n
           ...
         = D*∑(n=0→∞; ((1+g)/(1+r))^n)

したがって

  (1+r)P/D = ∑(n=0→∞; ((1+g)/(1+r))^n)

この左辺は有限なので、(ちょっと乱暴な議論だが)右辺にある無限級数は収束するはずで、(1+g)/(1+r)=Aとおくとその値は1/(1-A) = (1+r)/(r-g)。なので結局

  r = D/P + g

D/Pは初期の配当利回りのことなので、無事

  長期リターン = 初期配当利回り + 配当成長率

という式が得られたことになる。

ここでのミソは、理論株価を求める級数において割引率の次数と成長率の次数が1つずれていること(前者は初回配当から適用されるのに対して後者は2年目からのため)。これによって無限級数の収束値を求めたあとの余分な”1+r”がきれいに消えてシンプルな式になる。この公式の根拠になりそうな資料をいろいろぐぐって探して見つかったコラム(?)では、「等比級数の和の公式から導くことが出来ます」とだけさらりと書かれていて、これは間違いではないのだが、そのヒントだけでこの結果にたどり着くのは結構難しいのではないだろうか。ここでまとめた(自己流の)考え方が正しいのかどうかは実はよくわからないが、少なくとも自分自身については筋が通った説明が得られた気がするので満足することにする。