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日本で発生したキャピタルゲインの税金処理: 追々記

一週間ほど前にこのタイトルの件で書いた「追記」のblog記事では、実は一つモヤモヤした部分が残っていた。金融機関が作成することになっているForm 1099-Bのinstructionの規定を、(金融機関が外国に存在するため)1099-Bが発行されない場合の一般の納税者に適用してもいいのかということである。状況からすれば適用できるはずと考えるのが自然だと思うが(アメリカ国内なら1099-Bの発行は義務だとはいえ、その有無によって譲渡益の計算およびその課税方法が異なるのは不自然だから)、やはり微妙な気持ち悪さは残る。そこで、もっときちんと調べて、より根本的と思われる資料を発見し、この理解でよさそうだということを確認した。ついでに、前回やはりやや曖昧だった「スポットレート」の定義についても、もう少し具体的な規定を発見した。以下はその調査内容の詳細である。

発見した資料はCode of Federal Regulations (CFR)1.988-2である。この(a)(2)(iv)に、米ドル以外の通貨建てで株式を売却した場合のbasisとproceedsをドル建てでどう計算するかが非常に明確に規定されている。すなわち、

  • Cash basisの納税者が市場で株式を売却した代金をnonfunctional通貨で受け取った場合、それを受渡日(settlement date)のスポットレートでfunctional通貨に換算した値をその株式の対価とする
  • Cash basisの納税者がnonfunctional通貨によって市場で株式を購入した場合、その対価であるbasisは、支払ったnonfunctional通貨の額を受渡日のスポットレートでfunctional通貨に換算した値とする

CFRのこの項の(C)にある例ではこのことがより具体的に説明されている。この資料を発見した後となってみると、1099-B instructionの記述もこのCFRが基になっているのだろうと想像できる。

なお、functional通貨というのは(マイナーな例外を除き)要するに米ドルのことである(IRS資料参照)。nonfunctional通貨の概念は明示的には定義されていないが、「functional通貨」以外の通貨と考えるのが自然だろう。また、cash basisの納税者という概念はIRS Pub 538で定義されていて(ただしここでは会計の手法で分類していて、cash methodという用語が使われている)、収入全般について受け取るごとに所得として算入する方式(を採用する納税者)のことで、普通の個人の場合は通常cash basisとなる。

ここで若干気になるのは、この方法によってfunctional通貨に換算した株式の譲渡損益をcapital gain/lossとみなしていいのかということである。上で参照したCFR 1.988-2(a)(2)(iv)(C)の例では、この譲渡益のことを単に”gain”と呼んでいて、これがcapital gainかordinary gainかについては明記していない。このCFRは全般に、”exchange gainまたはloss”(為替レートの変化から生じるgain/loss)についての規則で、これらは一般的にordinary gain/lossとして扱われる(CFR 1.988-3(a)参照)。この規則の中で触れられていることから、もしや外国通貨が株式の譲渡益もexchange(つまりordinary)gainとみなされるのではないかという不安も湧いてくる。

この不安を払拭してくれる直接の記述は、IRSの資料やIRC・CFRの中では見つけられなかったのだが、いろいろ調べてみた結果、筆者としては一応capital gain/lossと考えてよさそうという結論に達した(ただしこれは素人によるまったくの独自解釈であり、この記事の他の部分にも増して無保証である)。

まず、”exchange gain(loss)”はCFR 1.988-1(e)で以下のように定義されている:

The term “exchange gain or loss” means the amount of gain or loss realized as determined in § 1.988-2 with respect to a section 988 transaction.

ここに出てくる”section 988 transaction”はCFR 1.988-1(a)で定義されており、以下のいずれかである:

  • nonfunctional通貨の譲渡(disposition)
  • nonfunctional通貨建ての”debt instruments”の取得
  • その他通貨関連のデリバティブなど

Debt instrumentsというのは要するに債権のことだと考えればよいようだ。したがって、株式の売買は(nonfunctional通貨で決済するとしても)これらのいずれにも当てはまらないのでsection 988 transactionではなく、それによって発生した損益もexchange gain/lossではないと考えられる。

また、一般論として、株式は”capital asset”であり、その売却によって実現した損益はcapital gain/lossとなる(IRS Pub 17 Reporting Gains and Lossesの項参照)。売却の決済にnonfunctional通貨を用いる場合についてとくに例外規定がない(少なくともsection 988の中には)以上、この一般的な規定が適用されると考えてよさそうに思われる。

お上による公式な資料ではないが、関連する項目を検索して見つかるweb上の他の資料でも、この場合はcapital gain/lossだとして扱われている(たとえばこれとかこれ。ただし前者は検索ページ経由でないと全文を読むのに登録が必要な模様)。

また、前回のblog記事で「明記されていない」と書いたスポットレートについて、CFR 1.988-1(d)にはいくつかの具体例が示されている:

3番目があるので、たとえばOandaのような私企業が公表しているデータでも問題なさそうである。

ところで、このような「外貨」建ての株式売却による譲渡損益の計算方法はアメリカ独自というわけではないようだ。たとえば日本の国税庁通達にある租税特別措置法37条の10の8項目にこれに関する規定があり、約定日と受渡日の違いや通貨の換算レートの決め方などに細かい違いがあるものの、基本的な考え方は同じである。また、マネックス証券のページにはもう少しくだけた説明がある。

ということで、株式売却によるbasisとproceedsのドル換算方法とそれから決まるgain/lossの計算についてはだいぶすっきりしたのだが、この資料を読んでいるうちにさらにモヤモヤする部分に直面してしまった。それについては改めて書くことにする。