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HSAデビュー記録

(FI Planning再掲載を機会にだいぶ前にtwitterでつぶやいた内容を加筆・修正してブログ化しました)

1年ほど前に転職したところ、福利厚生周りでいろいろ再考しないといけないことが多くて難儀した。とりわけ苦労したのが健康保険周りで、前の職場になかった「医療費口座付き高免責プラン」(HDHP+HSP, High Deductible Health Plan with Health Savings Account)というのが新たに選択肢に加わったため、(アメリカで生活するため以外には何の役にも立たない知識をまた一つ)一から勉強し直すはめに。

万人にあてはまる法則はない(Fiananceに関する話一般にいえることだけど、その上に保険プランや雇用者の補助の違いが大きいため)と思うが、あえてexecutive summaryを挙げるとするとこんな感じ:

  • HDHP+HSPとそうでないプランが用意されてる場合、自己負担の損得は慎重に計算する必要がある。にわかには明らかでないし、よく言われているように普段の医療費が少ない人のみHDHPが有利とも限らない
  • (キャッシュフローが許す限り)HSPは医療費用途の積立としてではなく運用口座として使うことをまず検討すべき
  • とくに運用口座として考えると、健康保険に抱き合わせのHSP口座はおそらく粗悪。抱き合わせ口座にとらわれずベストの口座を探してそれを使うべき
  • 転職してはじめてHDHP+HSAになったような場合、(税金処理上のトラブルを裂けるため)少なくとも翌年末まではその保険を維持するのが望ましい
  • (かなりローカルだけど)カリフォルニアではHSAへの拠出は所得税控除対象でない。しかもcalfileも使えなくなる

HDHPと(とくに)HSAについて

HDHPは、免責額を高くする代わりに保険料を下げる保険プラン(自動車保険とかでありがち)。一方、HSAというのは非課税(もしくは課税繰り延べ)効果のある貯蓄口座で、税引前の給与から拠出して医療費の支払いにあてることができるというもの。医療費として使う分にはいつ引き出しても税金がかからない。FSA(Flexible Spending Accounts, FI Planningでの解説)と似ているが、以下のような(重要な)違いがある。

  • HSAの口座開設はHDHPに加入することが条件。保険がHDHPでなくなると(口座は維持できて医療費の支出にも使えるが)新規の拠出はできない
  • FSAと違い、口座の残高は年を超えて維持できる
  • (少なくとも2014年は)FSAより拠出可能額が高い: HSAは単身者で$3300、家族で$6550。FSAは$2500(しかも企業がそれより低く設定する場合もあり得る)
  • HSAでは拠出額を年初までに確定する必要がない
  • 65歳以降は医療費用途でなくてもペナルティなしで引き出せる(繰り延べられていた税金はかかる。つまりtraditional IRAと同様)
  • (HSAのプランの一部として提供されるオプションの範囲内で)拠出したお金を単なる貯蓄でなく株式や投資信託などの運用資産に投資できる。また、その資産からの分配や売買益への課税は引き出し時まで繰り延べられる上、医療費として引き出す場合には完全に非課税になる
  • カリフォルニアの場合、HSAへの拠出額は(いまのところ)州所得税の控除対象ではない(後で詳述)

なお、保険プランがHDHPとなるための条件はIRSのPublication 969に記載されている。現状で、基本的に免責額が単身者で$1250以上、家族で$2500以上でないといけない。その他、上に挙げた特徴の一部もこのpublicationに記載されている。

基本的には、HSAはFSAより(ほぼ)あらゆる点で優れているといえそう。(カリフォルニアでは)州所得税の控除対象にならないことと、HSAでは月額数ドルの口座管理費を取るところが多いっぽいというあたりが欠点といえば欠点だけど、最大限拠出した場合の節税効果の差だけでほぼ元が取れそう。

HDHP+HSAは有利か

ただし、家計全体としてHDHP+HSAを選択する方が得かどうかはにわかには明らかでない。まず、HDHPの方が一般の健康保険に比べて普通は免責額が高いので、年間の医療費支出が大きい人の場合は持ち出し分の差で損になる可能性がある。また、勤め先の企業がHDHPと普通の保険の両方を提供しているとしても、保険のカバー内容に差があることが普通なので、その内容によってはさらに持ち出しが増える可能性もある(減る可能性もある)。

ということで細かく計算してみたのだが、転職先(=いまの職場)のプランの場合、HDHPを選択する方が明らかに得だということが判明した。まず、保険プラン自体の主なサービス内容を比較すると以下の通り。なお、HDHPはPPOタイプ(建前上どの医者にもかかれる)の保険なので非HDHPの方もPPOのプランの場合で比較している。

普通のPPO HDHP PPO
免責額(単身/家族) $500/$1500 $1250/$2500
診察 $20-$30負担 10%負担
処方薬 $20-$80負担 10%負担

これに加え、保険料の自己負担は単身者の場合でHDHPの方が年間$814安い(ただし、被保険者の年齢その他の条件によって大きく変わると思われる)。したがって、免責額を使い切る場合(HDHPにとって不利な条件)でもすでにHDHPの方が得。(免責額使い切り後の)診察や処方箋の自己負担分は、計算方法が違うので単純比較ができない上に個々の利用者の状況に大きく依存すると思うが、筆者の最近の医療費の実績を元に計算した限りではほぼ同等だった。さらにFSA(非HDHPのPPOで利用できる)とHSAでは明らかに後者の方が有利ということで、迷う必要はなくなった。

HSA口座の利用法

保険プランが決まって一安心と思ったら、次に悩むことになったのがHSA口座をどこに開設するかという問題。保険プランに抱き合わせになっている口座があるのだが、少し見てみただけでも金融商品としていかにもダメそうな代物だった。まず、有無をいわさず毎月$2の管理費を取られるし、拠出金を運用することにした場合の商品(PDF)もいかにもしょぼそうな選択肢ばかりだった。401kプランが提供する金融商品の多くが粗悪である背景と同じ構造の匂いがするので、おそらく多くの企業でそうなのではないかと思われる。

ということで抱き合わせ口座を利用する考えは即座に捨て(401kとは違い、会社「推奨」のHSA口座を利用する必要はない)て、自力で開設先を探すことにしたのだが、これにえらく手間取ってしまった。ただ、それで調べている過程で最初には想定していなかった利用法に気づくことができた。すなわち、拠出したお金を医療費ではなく優遇税制の運用口座として資金運用に使うというもの。人によってはstealth IRAと呼んでいるらしい。確かに、税金優遇付き運用口座として考えると、HSAはほとんどIRAと同等(上に箇条書した特徴参照)だし、医療費として引き出せば完全非課税という点ではtraditional IRAよりも優れてさえいる。高い税金を節約する手段が限られている身としては、HSAを単なる支払い口座として使ってその効果をみすみすフイにするのはあまりにもったいない。

ただしこの場合、とくにHDHPの高い免責額分までの医療費の自己負担を別途手取りの給与なり普通の貯金なりから捻出できるだけのキャッシュフローを確保する必要がある。免責額が法律上の下限よりもずっと高くて、しかも医療費もたくさんかかる人の場合は現実的でないということもあるかもしれない。筆者の場合は、提供されているプランの免責額は下限の値で比較的低く、医療費も少ないとはいわないものの捻出できないほどでもないという状況だったのでこの点もクリア。

HSA口座の選択

そういうわけで、資産運用のオプションが使いやすいHSA口座を選ぶ必要性がますます高まったのだが、調べてみるにつけどれも一長一短という状況で、なかなか決められない。上の”stealth IRA”のリンクで紹介されているHSA bankは、資産運用の選択肢という点ではかなりいい(TD Ameritradeの証券口座とリンクしていて、一般の口座並の運用の選択肢がある)のだが、口座管理費を避けつつ運用もするためには現状で年間約$5000の現金残高が必要。将来また会社が変わったりしてHSA対応じゃない保険になったりしても、401(k)のようにIRAに移管というわけにもいかない(ただし口座を維持することは可。運用も継続できるはず)ので、そのままゾンビ状態の塩漬けになる可能性もある。

HSAの謳い文句の一つは、医療費に使う場合は(引退前後に関わらず)引き出し時も非課税なことだが、その頃までアメリカに住んでいるとは限らない、というよりむしろその可能性は低そうな気がするのでそこはあてこめないし、すると途中で引き出してペナルティを受けるか$5000(しかも今後少しずつ上がると思われる)を投資機会損失状態で放置するかという選択になってしまう。一方、もう少し最低残高の低い口座もあるのだが、そちらは運用オプションがいまいちだったりする。(余談ながら、VanguardあたりでHSAを扱っててくれたら最高だったのだが、残念ながら扱いなしだった)。

ということで、決めきれないまま開設期限の年末が近付いてしまい、結局、塩漬け(になる可能性)の$5千は緊急時用予算として積んであると思って割り切ることにして、HSA bankに開設することに決定。その足でさっそく上限まで拠出してようやくデビュー成功。

…しかし、みんながこんな複雑な仕組みをちゃんと研究してプラン(およびHSA付きの場合その口座)を選んでいるかは非常に疑問である。自分が支払う医療費を意識するという理念(建前?)はわからないでもないけど、それよりもアホみたいに高い医療コストをまずなんとかしてほしいものだ。アメリカの医療費がいかにアホかは至るところで紹介されているが、たとえばThe Economistの2013年の記事にある以下のグラフ参照:

年度途中開設の場合の制限

今回の場合(転職してHDHPに入ったのが7月)のように、年度途中でHSAへの拠出資格を得た場合、拠出額に制限がかかることがあるので注意が必要。まず、大原則としては、制度上の上限(2014年で$3300と$6550)に対し、HDHPに加入している月数/12の割合までしか拠出できない。ただし、”Last-month rule”という救済措置があり(アメリカお得意のムダに複雑な税制…)、加入した年の最後の月の一日目(つまり普通12月1日)時点でHDHPに加入している場合、その翌年を通して加入し続けるという条件のもとで、加入年も制度上の上限まで拠出できる。このあたりの詳細については上にも挙げたIRSPublication 969およびForm 8889参照。

要するに、ありそうなパターンとして年度途中で転職してHDHPに新規に加入した場合、その翌年末まで働き続けて保険のプランも継続していれば2年分満額拠出できるということになる。もちろん、初年度の拠出時点で翌年のことを完全に確定できるわけではないので、2年目の途中でHDHP加入が途切れるということもあり得る(連続して転職とかクビになるとか…ただ失業の場合はCOBRAなどで個人でHDHPへの加入を続けるという選択肢はあるかも)。その場合は2年目の確定申告(tax return)で超過拠出分を所得として申告して調整する(さらに10%のペナルティも課せられる)。

ということで、筆者も最低限今年末まではクビにならないように気をつけないといけない…

カリフォルニア居住者の税金の罠

HSA口座開設後はじめての確定申告まで気が付かなかったのだが、HSAへの拠出はカリフォルニアの所得税控除の対象ではない。しかも、FTB(Franchise Tax Board、IRSのカリフォルニア版)謹製の無料申告サイトcalfileはHSAに拠出していると使えないという驚愕の事実まで判明してしまった(FTBのページの”General Information”参照)。

FI Planningの掲示板でも書いたが、ここ数年TaxACTとcalfileの組み合わせで、税金収めるのに余計に出費までかかるという精神衛生上大変よろしくない事態を防いできたのだが、今年はそれができなくなってしまった。州所得税の計算は(日本の確定申告程度には)簡単なので、calfileの結果を参考に手で修正計算して紙で提出、というところまでやれば郵送費だけで済ませられただろうけど、そこまでの手間をかける根性がなかったのと、できる限り郵送は避けたい(申告書なくされたりしかねないので)ということで、泣く泣くTaxACTの州版を購入して申告。

HSA拠出者は珍しくない(むしろ企業が健康保険の負担を減らそうとしてる流れからするとHDHPとの組み合わせでますます増えるのでは)と思うのだが、どうしてこういうつまらない制限を付けるのかまったく理解不能である。ユーザを金づるとしか考えてなくてサービス向上より政府版申告システムの使い勝手を制限させるロビー活動の方に熱心な某I社あたりの陰謀に違いないと睨んでいるのだが…

ただ、筆者のように無料版だけ使うユーザのせいでTaxACTが潰れたりしてまたTurbo Taxを使うはめになっても困るし、と自分を納得させて今年は献金することにした。一方、FTBにはこういう制限は早く撤廃してくださいとお願いフォームをsubmitしておいた。

もしここまで読んだカリフォルニア住人かつHSA拠出者の方がいらっしゃいましたら、ぜひ同様のリクエストをご検討ください。FTBのリクエストフォームのページはこちら