メインコンテンツに移動

Inversion(23)「Inversion・過少資本税制と米国税法のこれから」

Max Hata
1月に久しぶりにポスティングを再開するに辺り、「何を書こうかな~」と考えたあげくに気楽に選んでしまった「Inversion」。いつの間にか今回で23回に亘る長編になってしまった。

このInversion、「Inversion (3)」で触れた1983年のMcDermott社による初期型のVersion 1.0から始まり企業と税法・財務省規則との「いたちごっこ」というか「相乗効果」というかで、今ではVersion 5.0にまで進化し、海外にあるそれ相当の大企業を相手に複雑な組織再編を通じて実行され、それとセットで米国の課税ベースを圧縮するさまざまな手法が織り込まれるにまで至った。税法的な大きなターニングポイントとしては90年代のSection 367、2004年ブッシュ政権時のSection 7874、そして2016年の暫定規則があげられる。特に最後通牒的に2016年4月に発行された財務省規則によるInversion規制は現在のSection 7874内で可能な範囲ぎりぎり、または見方によっては権限逸脱に近い部分もある形で極限までInversionを制限している。SigningされてClosingを待つばかりであったPfizerによるAllergenとの統合を利用したInversionが規則発行2日後に断念されてしまったことでShowdownを迎えている状況だろう。

PfizerのInversionは2014年、2015年に発行された2つのNoticeの条件はクリアしており、その後に発表される財務省規則はNoticeの内容に準じると想定されていただけに、規則がNoticeを超える制限を挿入し、PfizerのInversionに特化した形で、すなわち、PfizerのDealが成り立たないように規定している点、財務省は「なり振り構わず」Inversion規制していると言える。特定の法人を狙い撃ちするような規則は認められないため、財務省は「どの法人、Dealを念頭に置いた規則ではない」と当然主張するが、まるで憲法違反の「Bill of Attainder」を連想させるあからさまなPfizerのDeal潰しと受け取られている。

Pfizerとは異なり、そもそもNoticeが発行された時点でその壁を超えられなかったDealもある。例えばAbbVieによるShire買収を利用した英国へのInversionがその一例だ。このDeal、$54B規模だったからかなりのメガDealだった。しかし、2014年のNoticeが直接の理由となり、AbbVieは$1.6BのBreakup Feeを支払ってDealはオフとなった。AbbVieもPfizerがInversionを断念した際に言っていたように、2014年Noticeは彼らのDealを念頭に規定されたのではないかという疑念を持っていたと言われる程、タイミング、その内容が絶妙だった。

Dealがオフになると(Dealが成立したケースでもだけど)株主訴訟はある意味付きものだ。当然、AbbVieのケースでも株主訴訟となり、Dealの公式発表を基にShire株式を取得した株主が「統合発表時にInversionによる税メリットの重要性を過小評価しているかのような公式見解をAbbVieおよびShire側の会長が出しており、これらはMisleadingでありSECのルールに反する」という訴えを起こしている。結果はAbbVie側の棄却申し立てが認められたようだが、原告側の申し立て内容は面白い。

すなわち、Inversionの規制が厳しくなるだけでDealがダメになったということは、会社側が散々言っていた「法人税減は1つのメリットに過ぎず、他の事業目的は余りある」という趣旨の統合発表時の見解はウソだったのか?という株主側の疑問提起だ。実際問題として、発表時にはInversionして税金が低くなることだけを目的とは言えないだろうし、Reputation的にもそこはDownplayする企業が多いのは事実だ。ただ、前回のポスティングでも触れた通り、どのInversionも事業目的が並存しなければ検討されないのもまた事実だろう。ただ、再編後のシナリオに与える税コストの占める位置は大きく、グローバルで必死で競争している米国MNCにとって、その税メリットがなくなってしまうとDeal Economicsに大きな影響があるのも事実。AbbVieに対する訴訟はそのような難しいバランスがチャレンジされたもので、結果的に棄却となったとは言え、Inversionを計画する際の会社側の公式見解のいい回しにも今後は更に気を使わないといけないといういいレッスンだろう。

Inversionに対する税法は不思議なもので、最初から持株会社が外国に設立されていると、何の問題もないが、一旦米国に設立されたものを外国に持っていくのはダメ、という発想に基づく。でも考え方によっては最初からそのように組成する自由があるんだったら、途中でやっても、適切なExitチャージを払えば同じことではないかと思うがどうなんでしょうか?Inversionが無理または難しいと分かれば、今後のスタートアップは間違いなく単純に最初から賢く外国に親会社を設立して米国は一子会社っていうセットアップとしてしまえば済む話しであるとしたら、途中からそうしますっていうと非国民で許されないというのも不思議。根本的な解決策はInversionをし難くするのではなく、Inversionしないでも米国でComfortableに親会社を運営できるような税制とするしかないだろう。税率を下げて、全世界課税を改めて日本が2009年にしたみたいにテリトリアル課税に移行させるしかない。

財務長官が議会に対してInversion規制の強化を訴え、現状のSection 7874の基準である継続持分80%を50%に引き下げようなどという動きを聞くと何の解決にもならないどころか、米国企業の競争力を低下させるだけではないのかな、と心配だ。

米国税法の見地からは、日本企業のMNCは生まれながらにしてInversionしているので、米国企業がInversionしたらこうしたいなと夢に見ているメリットは自然と享受できるし、Inversionした法人に対する様々な足かせも適用されることがない。ただ、BEPSレポートのところでも触れたが、日本企業のMNCが米国でこのようなメリットを少しでも利用している形跡はほとんどない。

米国税法の抜本的改正も掛け声ばかりで遅々として進まない中、今後、米国MNCがどのように、2016年の暫定規則を乗り越えてInversionを進化させて行くかかなり興味深い。という訳で、5ヶ月・23回に亘りいろいろと書いてきたInversion。何か進展があるまで取りあえずこの辺にしておこう。次回からはまた思いついたトピックで。特にInversionのシスター規則、過少資本税制の規則案に関してはこの夏に掛けて進展あり次第取り上げて行きたい。

コメントを追加

認証
半角の数字で画像に表示された番号を入力してください。