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財源の道具化する米国国際課税ルール改正

8月10日に電光石火のごとく法律化された「Education Jobs and Medicaid Assistance Act(以下「州財政救済法」)には以前から「Extender Bill」とか「Closing Tax Loopholes・・」とかいろいろな名前で提出されていた法案に盛り込まれていた国際課税ルール改正の多くが盛り込まれた。

この法律は連邦政府と並んで財政難に苦しむ州に対する連邦の援助を目的としているもので、高齢者に対する医療保険制度であるMedicaid、教育関連費用に州が充当する財源として260億ドルを手当てするものだ。夏期休暇の真っ只中にアッという間に法律化されるという異常事態から、選挙を控えての政策的な法律の色彩が濃いと言われている。それにしても、長年確立されてきた税法に基づいて全世界のオペレーションをプラニング・構築してきた米国多国籍企業にとっては頭の痛い税法改正となる。

財政難は州ばかりでなく連邦政府も同じだが、連邦にはドルを印刷するという州にはまねのできない芸当がある。その意味で州の財政難はより深刻であり、州税の課税権の強化等、日本企業の米国オペレーションにもいろいろな形で影響を与えている。

今回の州財政救済法下で州に提供する資金の調達先として法律に盛り込まれているのがナント国際税制強化に基づく税収増だ。以前から法案として提出されていた項目ばかりで、過去のポスティングでも詳細に触れてきたもので構成されている。お金が必要だったと言う背に腹は変えられない事情は理解できるにしても、今回の税法改正は「米国として国際課税をどのようなルールで今後取りまとめていくのか」という議論がないままに、課税強化をしたという印象が拭えず、今後ますます税法が取り留めのない方向に進むような気がする。

*州財政救済法に盛り込まれた国際課税強化

今回の財源確保の手段として盛り込まれている規定のほとんどは間接外国税額控除を計上する際の制限を厳しくすることで米国の法人税を増額させるものだ。下の列挙してあるのが主たる国際税務規定だが、その内容に関しては過去のポスティングで触れているのでここではそのリンクを表示しておく。なお、以前にポスティングしている段階では、これらはあくまでも「法案」であったが、今回は下の項目は全て法律化されている点でことの重大性に差がある。

*税金と所得のSplitting

税額控除の対象となる外国法人税の支払者と課税所得を認識する者の整合性の確保(2009年8月9日のポスティング参照)を目的とした規定だ。これはもともと税金の基となる所得を認識していないのに法的に負担したと取り扱われる外国税金を税額控除させるのを防ぐ目的で制定されたものだ。

一番分かり易い例は以前にも触れている「Guardian Industries Corp」に見られるパターンのように外国の法律では親会社がグループの税金を法的に負担しているような例だ。これだけであればGuardianの舞台であるルクセンブルグの連結グループとかかなり限定された局面にだけに適用されることなる。

しかし今回の法改正がターゲットする「Splitting(不整合)」はもっと広義であり、他の一般的に利用されている形態にも当てはまる可能性がある。例えば米国の下に外国のReverse Hybridなんかを持っていると、Reverse Hybridの事業活動に対する現地の税金は米国事業主体が支払う(外国目的ではパススルーなので)が、所得の認識は米国ではない(米国目的ではCorpなので)。こんなケースも不整合だ。

*Covered Asset Acquisition

次に外国企業買収時に米国目的のみステップアップされた資産に基づくHigh Tax Poolの使用制限が盛り込まれてしまった。これに関しては以前にかなり触れているので(2010年6月26日以降のポスティング参照)、これ以上書くこともないが、急に登場してきてアッと言う間に法律になってしまった規定だ。外国企業買収時のプラニングを根底から変えるインパクトを持つ。

一点、Sec.338(g)またはCTBとかで簿価をステップアップさせても外国税額控除をHigh Taxとすることは難しくなったが、簿価のステップアップは他の目的では生きているので、例えば買収した外国法人のE&Pそのものを圧縮する効果はそのまま残る。

*ホップスコッチ規定・Sec.304

後は、ホップスコッチ規定(2010年7月12日ポスティング)、とSec. 304を利用したE&P減額(2010年7月12日のポスティング)の制限がしっかりと法律化された。どちらも以前に解説したものだ()。ホップスコッチに関してはMissing Personsの話しを覚えていてくれていれば幸いだ。

*唯一の吉報: 5472等報告漏れと申告書の時効

今回の法律改正の中で唯一のグッドニュースと言えば、Form 5472とかForm 5471等のクロスボーダー系の取引開示を行なった場合に、申告書の全てに対して時効が成立しないと規定されたHIRE法(2010年4月6日のポスティング)の規定をなかったものにしている点だろう。この法律の修正により、Form 5472、Form 5471に漏れがあった場合にはその項目のみ関して時効が成立しないというポジションが明確となり、HIRE法以前からもやもやしていた部分がすっきりしたと言える。