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かなり強力「Closing Tax Loopholes Act」(3)

Max Hata
近々に何らかの形で法律化されると噂される草案「Closing Tax Loopholes Act」が多くの国際課税プラニングに重大な影響を与えるものである点はここ2回のポスティングで触れた。この法案にはいくつかのフォーカスがあるが、その中のひとつに「外国税額控除」を利用した多くのプラニングに網を掛けるというものがある。外国税額控除は本来、全世界課税システムを採択している米国で、海外との二重課税を緩和するという目的で導入されているが、実際には多くのテクニックをもって二重課税の緩和以上の効果を持つことが多い。

そのようなテクニックのひとつである外国企業買収時の資産ステップアップに関してポスティングを続けたい。今回はClosing Tax Loopholes Actの中に規定されている「Covered Asset Acquisitions」に関して触れる。なお、この規定はオバマの予算案にはなかったのではないかと思われ、その意味で「思わぬ」制限が浮上してきたこととなる。全体に外国税額控除に対する改定案は辛口な仕上がりとなっている。

*Covered Asset Acquisitions

前回のポスティングで触れた「米国目的のみで買収先の企業資産の税務簿価をステップアップさせる」という手法の具体的な達成法はいくつか存在するが、それらを法案では「Covered Asset Acquisitions」と規定して、規定される取引からステップアップが起こる場合には、それに見合う外国税額控除のメリットを認めないとしている。次の3つの取引がCovered Asset Acquisitionsに当たる。

*Sec.338選択

Covered Asse Acquisitionの一つめはおなじみSec.338選択だ。オバマ政権の予算案に係る「時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(11)」でかなり詳しく触れているが、Sec.338選択は簡単に言ってしまうと会社法的には株式買収という形態を取る取引(Reverse Subsidiary Mergerを含む)で一定の条件を満たすと「税務上」はあたかも新規設立の子会社が買収先企業の資産を買収したかのように取り扱うという選択だ。

企業買収の多くは株式取得という形で行なわれる。株式を買収したと取り扱われると株式の簿価は買収価格となるが、買収先企業の持つ資産の税務上の簿価は従来のままとなる。例え会計上はPush-Downの処理をして資産の簿価を時価に引き直していたとしても税務上の取り扱いは変わらない。となると買収先企業の資産簿価を超える買収コストを費用化できない。そこで一定の条件が整っている場合にはSec.338選択をして税務上だけは資産を買収したかのように取り扱い、資産簿価をステップアップさせ減価償却またはGoodwillのような無形資産からのAmortizationでコスト回収する。最初から資産取得すればいいのだが実際に個々の資産、契約関係の名義を変更するのは手間も掛かり、また場合によっては取引相手の同意を得る必要があることもあり、実務上はかなり面倒であることから会社法上は株式取得というのは手続きが容易であるというメリットがある。

国内取引の局面では普通のSec.338選択を行なうと、ステップアップは実現されるものの、売り手側でGoodwillを含む全ての資産のみなし売却益に対して課税されるため意味がない。複数年掛けて費用化を実現するためにアップフロントで税金を支払うというのは単純に損をするだけだからだ。また株主側でのキャピタルゲイン課税と法人側の資産売却課税が二重課税となるのも致命的だ。

買収対象の企業に繰越欠損金があるようなケースでは検討の対象になることもあるが、米国内の買収で利用されるSec.338は通常(h)(10)と呼ばれる特別な選択ができる局面に限定されることが多い。(h)(10)に関しては以前のポスティングで何回か触れているが、買収対象法人がS法人または連結納税グループの要件を満たしているグループの子会社の場合に利用が認められている。この二つの局面では仮に会社法上も資産買収という形を取ったとしても、株主側(S法人の場合は個人株主、連結納税グループの場合は親会社)と法人側で二重課税がないため、Sec.338条も二重課税が発生しないようにできており、株主側の投資税務簿価と法人の持つ資産の税務簿価に差異がないとすると、基本的に売り手側で追加の税務コストなしでステップアップを実現できる。

一方で今回のCovered Asset Acquisitionsの対象となるのは外国税額控除の話しなので、買収される企業は外国法人となる。外国法人の場合には通常のSec.338選択(=(h)(10)と区別をつける意味で(g)選択と呼ばれることが多い)をして売り手側でゲインがでたとしてもそれらの資産が米国事業に供されていない限り、米国での課税はない。Sec.338は米国税務目的だけの「Fiction」なので現地国の課税関係には一切影響がない。すなわち、Sec.338を利用してアップフロントの課税関係なしに、米国目的で資産の簿価をステップアップすることができる。

また、外国企業の買収局面でのSec.338は、買収された企業の過去のE&PとかTax Poolを消滅させるという効果も併せ持つ。ちなみに売り手が米国法人の場合には売り手側にも影響があある。Sec.338で実現されたと取り扱われるE&Pの外国税額控除への影響、またSec.1248に基づく「みなし配当」額の算定基となるE&Pの金額は、通常は買収日で締めるのではなく、買収先企業の年度末まで待って決定されるが、Sec.338選択をすると買収日で全てが締まる。これは買収後に買い手が配当を行なうような場合、E&Pが減額されてSec.1248の金額が低くなり売り手側の取り扱いが不利になるような不慮の事態を避けることができるというメリットがある。最もSec.338がない場合には、買収契約上、年度末までは配当をしないというような規定を盛り込んでこのような懸念を担保することが多い。

Sec.338選択で随分と誌面を使ってしまったので他の二つのCovered Asset Acquisitionsに関しては次回のポスティングで触れる。

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