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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (4)

Max Hata
火曜日の米国中間選挙から一夜明けて、開票結果に基づく今後の勢力図が明らかになった。大方の予想通り、下院は民主党にフリップする一方、上院は共和党が差を広げたようだ。中間選挙は歴史的に大統領が属する政党は不利な立場にあるけど、上院が民主党の支配に降らなかった点はトランプ政権的には及第点と言えるだろう。上院が共和党寄りで安定したということは控訴審とかに保守派の判事を引き続き任命することができる立場を確立し続けたことになる。判事は基本終身制なので長期的なインパクトは大きい。一方、立法プロセスを考えると、下院と上院が異なる政党なので大きな法案可決は不可能に近い状態になってしまったと言える。下院が左寄りの法案を通し、上院がそれを反故にするというのが、恒常的パターンとなりそう。当然、ここ2年に亘る共和党によるオバマケア廃案努力はこれでおしまい。税制改正のテクニカルコレクションとか、既存の議員のまま構成されるLame-Duck期間にどこまで何ができるのかが注目の的。また、下院の歳入委員会の力関係が大きく変わるが、税制改正は一応終わっているので、Kevin BradyもPaul Ryanも一応任務は遂行したと言えるだろう。

され、2回ほどSection 956財務省規則案の突然の公表で、GILTIから離れてしまったけど、今回はGILTI復活。GILTIの概要は3回に亘るポスティングで紹介しているので、今回は財務省規則案に規定されるルールの中から、条文からは分からない詳細、条文から逸脱的な部分、また、クリエイティブな処理法を提言している部分にフォーカスしてみたい。ちなみに、どの規則案もそうだけど、規則案は所詮「案」なので、その公表を受けて納税者側が出す様々なコメントに基づき、最終規則となる際には、異なる姿となる部分が結構あり得る点は理解しておいて欲しい。

で、GILTIだけど、米国株主側のGILTIの算定は、各CFCのTested Income(Loss)を把握するところから始まる。でも、CFCってもちろん外国法人。ってことは多くのケース、というかほぼ常にCFC側の機能通貨は米ドルではないことになる。各CFCのTested Income(Loss)は各社の機能通貨で算定することになるから、それを米ドルに換算する必要がある。この点に関して、規則案はCFC課税年度の平均為替レートで米ドルに換算するよう規定している。平均為替レートの適用は、Tested Income(Loss)の米ドル換算に加え、有形償却資産ネット簿価を米国株主が吸い上げる際も同じ。すなわち、各CFCの有形償却資産の四半期毎のネット簿価を基に年間平均簿価を算定するまでは現地機能通貨を使い、米国株主側で米国の属性としてQBAIを算定する際にCFC課税年度の平均為替レートを用いる。さらに、米国株主側で算定した最終GILTI合算額はドルベースになるけど、これを各CFCに配賦する必要がある。主に、CFCの課税済所得やCFC株式の簿価算定の目的だけど、その際もCFC課税年度の平均為替レートで換算し、逆に米ドルから現地機能通貨に換算する。

また、CFCレベルのTested Income(Loss)の算定そのものだけど、各CFCを米国法人であるかのように取り扱い、既存のSubpart F所得算定法に準じて行うとしている。Subpart F所得ってCFCの特定の項目だけを抜き出して算定するし、最終的には当期E&Pが上限になるので、CFCレベルで米国の税法に準じた総合的な課税所得の算定なんて、従来誰も経験したことがないだろうから、これは大変なコンプライアンス負荷。Tested Income(Loss)って基本的に全ての総収入からそれに適切に配賦される費用を差し引いた金額だけど、このTested Income(Loss)算定時の総収入から免除される項目のひとつに従来からの「Subpart F所得」がある。その免除額を決定する際、Subpart F所得が課税年度の当期E&Pの上限に抵触して合算額が減額されている場合、Subpart F所得全額をTested Incomeから免除するとしている。その逆に、翌年以降、過去にE&P上限枠規定の影響により合算されていないSubpart F所得をRecaptureして合算する際には、当該合算額はTested Incomeからの免除額とはならない。それはそうだよね。既に過年度にTested Income(Loss)から除外してしまってるんだから。

Tested Incomeから免除されている「高税率課税を理由にSubpart F所得とならない金額」は、本来Subpart F所得となる項目に関して、納税者が高税率の例外選択を実際に行っている金額のみを対象とするって規則案はダメ押ししてるけど、この点は法文そのものからもクリア。多分、勘違いして、高税率国にあるCFCはGILTI対象じゃない、とか勘違いする輩に釘を刺す目的だろう。

以前のポスティングで、米国株主が所得として認識するGILTIは、CFCのTested Income(基本的には所得全額と考えるべき)合算額から「ルーティン所得」、すなわち「「ネットみなし有形資産リターン(Net Deemed Tangible Income Return = NDTIR」を差し引いた金額という点に触てるけど、この「NDTIR」は米国株主側の属性で2つの数字で構成される。

まず、各CFCレベルのQBAIと略される有形償却資産のネット簿価を算定し、米国株主が保有するCFCのうち、プラスのTested Incomeを計上しているCFCのQBAIのPro-Rata Shareを通算し、それに10%を掛ける。これが米国株主が保有するQBAIからのみなしルーティンリターンとなる。有形償却資産ネット簿価は、「Alternative Depreciation System(ADS)」と呼ばれる、通常より長期の耐用年数に基づく定額法定償却法で決定される必要があるが、CFCがGILTI規定の適用以前から保有している有形償却資産に関しても、取得日に遡ってADSを適用し、今後の簿価算定を行う必要があるそうだ。大変な作業となる。

で、QBAI x 10%の金額が出たら、そこからCFC側の支払利息のうち、Tested Income(Loss)の算定時に取り込まれている金額を差し引いてNDTIRがようやく確定するが、その際に同じ米国株主が保有する他のCFCがTested Income算定時に受取利息として認識している部分があれば、その支払利息はNDTIR算定時の減額額に加味しないと法文では規定されている。

この支払利息の部分に関して、規則案が公表されるまでは、米国株主がNDTIRを計算をする際、各CFCの支払利息が自分が保有する他のCFCで受取利息となっているかどうか、を各CFCに対するPro-Rata持分ベースも加味してトレーシングする必要があると考えられていた。この点に関して規則案は緩和策を規定し、「Netting」アプローチを採択している。このアプローチでは、CFCが支払う個々の利息の受け手をトレースする必要はなく、米国株主側で全CFCの支払利息および受取利息(Tested Income(またはLoss)の算定に加味されている範囲で)を一旦Pro-Rata持分に準じて取り込み、米国株主側でネットしてマイナスとなれば、同額をQBAI x 10% から差し引いてNDTIRを計算する。

何が支払利息なのか、っていう単純な問題は他の局面、特に新Section 163(j)でも大きな検討となるが、NDTIR算定時に加味される利息は、米国税法上、利息と取り扱われる項目全てを含むとされている。

今回の財務省規則案はいい意味でも悪い意味でもメカニカルな計算法に特化しているけど、それだけでも相当難しい規定が続いていく。チョッと長くなりそうなので、次回はパートナーシップが米国株主の場合とかの難しい計算法に関して。

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