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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(7) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、 留保所得一括課税に基づく特定外国法人の課税済所得と、米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価調整のデフォルト規定に触れた。すなわち、簿価調整は、マイナスで減額された後のネット額、イコール実際に米国株主側で留保所得課税の対象となったプラス金額のみで行うという規定だ。で、今回は、オプショナルで納税者に選択が認められる、課税済所得額と株式簿価増額をシンクロさせる規定に触れてみたい。

規則案では、マイナスで相殺されたプラス額に関して、プラス法人の株式簿価を増額させるのは、マイナス法人の株式簿価を同額減額する場合のみ適切であるとしている。この点はもちろんその通りで、簿価が上がると言うことは将来の課税所得を減らすということなので、対応的な調整がされない状態で一方的に課税所得を減らしてくれることは想定されない。簿価とかE&Pって言うのはタックスプラニングの主人公に近い存在と言えるけど、米国企業との比較で、日本企業でこの点を日頃からモニター、またはプラニングしてFTC、譲渡益、配当、その他を最適化しているところは少ないように思う。

プラス側の特定外国法人の株式簿価を増額するのはいいとして、米国株主の状況次第、特に留保所得一括課税を適用する直前の株式簿価の在り方次第では、マイナス側の特定外国法人の株式簿価を減額してしまうと、簿価がゼロを下回ってしまうような状況もあり得る。簿価がゼロを下回るとみなし譲渡益課税だから、それでは気の毒ということで、この調整は選択制になっている。

で、選択を行う場合、プラス留保所得を持つ特定外国法人の株式簿価は、他の特定外国法人のマイナス留保所得で減額された金額も含めて増額調整することとなる。この調整を選択することで、本来のSubpart F規定に基づく状況同様に、外国法人側の留保所得のうち課税済みとなる金額と簿価増額がシンクロするという「普通」の状態となる。ただ、上述の通り、増額調整の代償(?)的に、自分のマイナスを使われてしまった側の特定外国法人の株式簿価は使用された金額だけ減額が求められる。この減額が過ぎるとゼロを割り込んで、みなし譲渡益となることから、選択の際にはどの特定外国法人のマイナスがいくらどこに使用されているのか、と言う点をよく検証しないといけない。

3回前のポスティング「国際課税(4) 留保所得一括課税」で触れた通り、米国株主が取り込むプラスとマイナスの総額の比較で、マイナスが大きい場合には、どの特定外国法人のマイナスを使用したか指定できるという規定があり、この指定の仕方次第で、当選択をする際に、どこの特定外国法人の株式簿価をどれだけマイナスしないといけないか、という金額が異なる。

ちなみに、この選択をする場合、米国株主は全ての特定外国法人の株式簿価調整に選択を適用する必要がある。すなわち、Cherry Pickしてマイナスしても、簿価がプラスのままとなる範囲のみで調整とかするオプションはない。また、米国株主当人のみならず、米国株主の関連者も同様の取り扱いが強制されるとあることから、グループ内に特定外国法人を保有する複数の米国株主が存在する場合には、選択のメリット・デメリットはグループ全体で吟味する必要が生じる。

また、ここでは単純に米国株主が直接特定外国法人を保有していて、調整はその特定外国法人の株式簿価にフォーカスして書いているけど、米国株主が外国の法人を介して特定外国法人を保有していて、その下層に位置する特定外国法人からマイナスやプラスの留保所得を取り込んでいる場合には、中間に位置する外国法人の簿価が調整対象となる。通常、この手の規定は同様に外国パートナーシップにも適用されるけど、今回の簿価調整に関しては、特定外国法人が外国パートナーシップを介して保有されるケースに限り、米国株主があたかも直接、特定外国法人の株式を持分相当所有しているかのように、特定外国法人の株式簿価そのものを調整すること、としている。

留保所得課税を起因とする、これら一連の簿価調整は全て留保所得課税の対象となる特定外国法人の課税年度終了時に認識されるとしている。また、ひとつの特定外国法人に関して複数の調整が求められる場合には、調整額を合算・相殺の上、ひとつの調整を行うものとしている。

規則案には更に「みなし譲渡的軽減」規定が設けられてるけど、実は、この軽減策は上述のマイナス調整が簿価を割り込むケースを救済する目的ではない。もし、留保所得課税の対象となる課税年度に、特定外国法人が米国株主に実際の分配を行う場合、実際の分配のタイミングにかかわらず、課税関係を決定する際の取引優先順位的に、先に留保所得課税が発生し、その後に課税済所得が分配されたような扱いとなる。

でも、分配は実際には期中に行われているので、その時点で株式の簿価減額が求められるけど、留保所得課税の結果発生する簿価調整は、上述の選択をするかどうかにかかわらず、期末に行われる。となると、期せずしてタイミング差異で分配時にみなし譲渡益、という最悪のシナリオをあり得る。このような、恣意的な優先順位に基づく弊害を排除する目的で、分配時の株式簿価マイナス調整で簿価がゼロを割り込む場合には、留保所得課税に基づいて課税済となっている分配原資を上限として、譲渡益の認識は見送られる。

あくまでもタイミング差異の是正なので、譲渡益認識がなかった金額に関して、期末時点、すなわち課税済所得に対応する株式簿価調整が行われる時点で、譲渡益相当額の簿価減額が求められる。結果として、分配に基づく簿価減額と課税済所得に基づく簿価調整が同一タイミングで実施されたと同様の効果を持つこととなる。だったら、最初から分配に基づく簿価減額調整を期末で行うと規定すればよさそうな気もするけど、既存の枠組みがあるのでそうもいかないのかもね。これも新しい概念を既存のインフラ、プラットフォームで処理しようとする困難さのひとつ。

ちなみに、今回のポスティングの前半部分で触れているマイナスとプラスの留保所得相殺時の、プラス側の相殺額の株式簿価増額およびマイナス側の株式簿価減額選択をしている場合には、みなし譲渡益軽減規定は、マイナスで相殺されたプラスの留保所得だけど課税済所得と扱われている部分も含むとしている。逆に言えば、株式簿価調整の選択をしていない場合には、この部分の救済はない、すなわち、本当に留保所得課税された金額を基に課税済所得となっている金額を上限としてのみ、救済があることとなる。これは、すなわち、軽減規定そのものが、譲渡益そのものを救うという趣旨ではなく、優先順位に基づいて発生するファントム所得を無視するという目的で制定されていることを物語っている。

株式簿価調整の話しはこの辺で、次回からはFTCか何か、留保所得一括課税にかかわる別の切口で攻めてみたい。