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米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(7)「上院も委員会可決」

昨日11月16日、税法改正下院案が本会議を可決した段階で税法改正の当面の手続き的なフォーカスは上院、特に上院財政委員会に移った。Britney Spearsじゃないけど「All Eyes On Us」の気分だっただろう。で、それに応えるように今度はAdeleの「Hello from the Other Side」で、同日、財政委員会で上院案が可決された。

これで後はThanksgiving直後の上院の本会議審議、そこを通過したら両院一致法案化というプロセスを残すのみとなった。法案可決に至る手続き的な話しは「米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(5)「上院案骨子公開・下院はついに本会議に」」で詳しく触れているのでそちらを参照して欲しい。

もちろん上院における今後の展開はオバマケア廃案の失敗でも分かる通り予断を許さない。ただ、ここで税法改正も実現できないとなるとなんのために与党をやっているのか分からない、と認識している共和党議員も多いだろうから、何か達成しないといけないというプレッシャーは大きい。気になるのはもう再選を気にしなくていい議員が数名いることだろうか。

下院の歳入委員会同様、財政委員会も最後の最後まで修正案を出し続けていたので本会議に掛かる上院案の姿は分かり難い。下院と異なり、公表される文書が法文原案そのものでなく、中途半端な「Description(説明書?)」というのも我々専門家の立場からすると不親切だ。とは言え、現時点で分かる範囲で日本企業に関係が深そうな上院案の規定をザックリとまとめると次の通り。読んで分かると思うけど、下院案とは結構異なっている。う~ん、あんまり違っちゃってると仮に上院を可決してもその後の両院一致調整に苦労しそう。

まず、法人税率は下院案同様に20%だけど、発効のタイミングが一年遅れて2019年度から。法人税率低減の時間差に代表されるように上院は予算決議調整案の10年間は$1.5Tの赤字OKだけどそれ以降の期間に赤字はダメというByrd規定に敏感なので、歳入減に繋がる複数の規定が時限化されたりしている。パススルーや個人事業から所得認識する個人オーナーに対する課税は下院同様軽減はされているけど、アプローチは異なり、パススルーしてくる事業所得の17.4%を非課税処理するというもの。下院同様に人的役務に基づく事業は対象外とされる。AMTは撤廃。

設備投資減税はほぼ同じで、2017年9月28日から2022年末までに取得される動産事業資産が100%初年度償却対象となる。既存のボーナス償却対象資産に加えて、映画・テレビ・劇場プロダクションを含むと追加で規定された一方、公共ユーティリティ用途資産は対象外とされる。米国製造者控除(Section 199)は予想通り撤廃となる。

現状では期間費用として損金算入が認められている米国内で行われる研究開発費用が2026年より5年償却、米国外で行われている場合には15年償却の対象となる。また、2018年および以降の課税年度に発生するNOLは繰越期限が撤廃される一方、繰戻も撤廃。ここは下院と同じ。NOL使用額は繰越年度の課税所得90%上限。下院と似てるけど上院案は90%の制限に抵触するNOLは2018年および以降の課税年度に発生するNOLのみに見える。この90%制限は2023年および以降の課税年度には更に80%に減額される。

最後まで燻っていた上院独自のCorporate Integrationアプローチに基づき法人の二重課税を是正する方向かと思いきや、全く逆で配当所得に対する法人税低減の恩典を打ち消すため、内国法人が受け取る内国法人配当に対する非課税措置(DRD)を現状の70%(持分20%未満のケース)から50%に、現状80%(持分20%以上80%未満のケース)から65%に減額するとしている。

次に下院案でも話題のネット支払利息損金算入制限だけど、上院案ではAdjusted Taxable Incomeの30%を超えるネット支払利息は損金不算入としている。下院案でもこの「Adjusted Taxable Income」という用語を使用していて似てるけど、定義が異なるので注意が必要。下院の言うところのAdjusted Taxable IncomeはEBITDAだけど、上院のAdjusted Taxable Incomeは利息前の課税所得と規定されている。償却費用を加算できない分Adjusted Taxable Incomeの金額が低くなり、よって制限に抵触し易い。また損金不算入額は下院案は5年繰越だけど、上院案では永久に繰越が認められる。

また、米国多国籍企業グループのネット支払利息を全世界Debt/Equityレシオに基づき損金算入制限するという規定もあるんだけど、説明文書のタイトルを読むと米国に親会社がある場合にのみ適用と書いてある。一方で説明書本文を読むとIncludable Corporationは外国法人も含むとなっている。今回の上院案は未だに法文原案そのものは発表されていないので、米国外の多国籍企業グループへの適用は本当にそうなのかどうか若干不明だ。法文ではないDescriptionという形で公開されているのがひとつの問題なんだけど、不明確な理由は当制限規定目的で「Common Parent」を「Includable Corporation」の一人とみるかどうかという点。Includable Corporationであれば外国法人を頂点とするグループも対象となるかのように見える。この点に関して大元のSection 1504を見ると、Section 1504(a)(1)(A)のAffiliated Groupの定義冒頭部分で「The term “affiliated group” means 1 or more chains of includible corporations connected through stock ownership with a common parent corporation which is an includible corporation」となってる。この表現をもって法解釈的にCommon ParentもIncludable Corporationと考えるのか、それともCommon Parentは別カテゴリーだけどIncludable Corporationの要件を充たした法人しか成れない、と考えるか若干不明確。でもどちらにしてもIncludable Corporationに外国法人も含むとしている以上、米国多国籍企業グループだけでない気もするけど、タイトルは「Denial of deduction for interest expense of United States shareholders which are members of worldwide affiliated groups with excess domestic indebtedness」と言い切っているのでこっちの方が正しい気もするし、どっちとも判断し難い部分がある。

そして今や余り関係ない納税者が多いように思うけど、輸出促進策のDISCおよびIC-DISCはようやく撤廃となる。これらの規定の末裔のSection 199自体が撤廃だからDISCとかが生き残るのはおかしいもんね。

次にクロスボーダー系だけど、海外子会社(10%以上投資先)からの配当は非課税で下院同様にテリトリアル課税制度に移行、更に未配当原資累積額に一括課税となっている。一括課税の税率は上院の方が低くてCash Position部分が10%で、事業資産に再投資されているケースは5%。8年間の分割納付可能で部分的に外国税額控除ありという点は下院と同じ。

で、下院案で日本企業に最も注目されている規定のひとつと言えるExcise Tax(およびみなしPE課税選択)に代わる上院案が「Base Erosion Minimum Tax」というやつ。比較すると上院案の方が優しい気がする。Based Erosion Minimum Taxって長いのでここでは勝手に略して「BEMT」ってしとくけど、このBEMTは米国法人が支払うBase Erosion Paymentが損金算入されている場合(費用または償却)、その金額をBase Erosion Benefitとして、通常の課税所得に加算処理して「修正」課税所得というものを算定する。で、これに10%を掛けた金額が通常の法人税より高ければそちらをBEMTとして支払うという仕組みだ。10年間を超えて赤字になってはいけないという縛りの関係から最後に修正が入り、この10%は2026年からは12.5%に上がることになっている。 このBEMTの対象はREIT・RIC以外の米国C Corporationで、50%資本関係にあるグループ売上が$500M以上、さらに対象米国法人のBase Erosion Benefitが損金算入額総計の4%以上の納税者とされる。

Base Erosion Paymentは米国法人が米国外関連会社に行う費用項目および資産取得支出とされ、マークアップの説明では売上原価は対象外と明記されている。下院は仕入にかかわる支出も特定支出として20%ペナルティー課税の対象なので、この点上院案は対照的で、この差は大きい。ここで言う関連者は25%株主、25%株主または該当米国法人と50%超の資本関係にある者、又は米国移転価格税制上関連者と扱われる者と規定されている。

下院の特定支出同様、30%源泉税対象となる支出は対象外で、条約で源泉税が低減されている場合には低減相当分額がBase Erosion Payment扱いとなる。という訳で下院の20%ペナルティー課税と比較するとかなり合理的。それだけ聞いたら酷いニュースでも、先にもっと酷いニュースを聞いた後に聞くと、グッドニュースかのように聞こえる例の典型かもね。

もう一つ日本企業に影響がありそうなのは、米国でECI・PE事業所得を認識するパートナシップ持分を外国人パートナーが売却する際に、あたかもパートナシップ内部資産の持分相当を売却したかのように扱われ、結果として資産のタイプ次第では、その分パートナシップ持分売却益がECI・PE課税の対象となるというもの。これは以前のポスティング「外国法人による米国パートナシップ持分譲渡・売却」で触れたGMMケースでIRSが主張して裁判所に退けられたRR91-32のポジションを法制化しようとするもの。まあ以前からこの動きはあったので想定の範囲内。RRとかセコイやり方、っていうか行政府が法律を変えるような真似しないで、ちゃんとこうやって立法府である議会が法律を変えてくれたら揉めることもないし反ってスッキリする。

という訳で「All Eyes On Us」の感謝祭直後の上院本会議審議に注目しよう。