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トランププランと今後の税法改正動向(3)「国境調整」(3)

前回、前々回と下院歳入委員会が提唱するThe Blueprintの中のDBCFTのうち消費地課税を実現するためのメカニズムとなる国境調整、そしてキャッシュフロー課税について触れた。また、国境調整に関しては一般メディア等には正しく理解されていないように見受けられる点にも触れた。

5月23日には下院歳入委員会による国境調整に特化したヒアリングが開催されたり、Kevin Brady等による必死の延命措置が展開されているけど、そもそもよく理解されていない税法であること、仕入れを輸入に頼る小売業等による反対ロビー活動が強力なこと、ドル高懸念、等が相まってどんなに導入時のインパクトを軽減すると言っても消費地課税の導入は風前の灯火状態と言える。

そんな状況なので、今となっては学術的な背景となってしまうかもしれないが、経済のグローバル化が更に進み、現状の所得ベースの法人税が機能不全となった暁には又DBCFTが各国で真剣に議論される日が来るかも。ここはそんな日のため備忘記録的に読んでみて欲しい。到着が早すぎたということなんだろうか。Back to the Futureの最初のストーリーで主人公Marty McFlyが何十年も前のダンスパーティー(まだChuck Berryがデビューする前の時代という設定)でEdward Van Halen風のギターソロを弾いて誰も理解できなくて、仕方なくMartyが観客に向かって「皆さんの子供たちの時代になればきっと分かると思うよ」みたいなシーンがあって笑えたけど、DBCFTも実はCheck Berryデビュー前のVan Halenのソロみたいな感じ?全然違うかもね。

DBCFTはVATに類似すると言われるけど、その中でもSubtraction方式のVATに最も類似しているらしい。で、VAT採択済みの150か国の中で一か国だけこのSubtraction方式を採択している国があるということ。どこでしょうか?そう、日本なんです、これが。ということでDBCFTに一番似た仕組みを既に実行しているのはナンと他でもない日本という面白い事実がある。でも日本もSubtraction方式は行く行く改めると聞いたことがある。

で、DBCFTとVATを比較すると決定的に異なる点が2つある。まず1つは米国内の人件費が20%の課税計算上、控除できることだ。米国外のサプライチェーンを経由していくる場合には、輸入時の国境調整メカニズムを通じて、米国外の労力に基づく付加価値も含めて全ての価値に20%課税されるので、この点は国内と輸入を「Level Playing Field」にしている以上の効果、すなわち米国を有利にしていると言える。経済学者に言わせると、この点に関しては国内の給与税を減税しているのと同じ効果、すなわち普通のVAT(人件費控除ナシ)と従来から国内に存在した給与税(米国のFICA)の減額の2つを組み合わせた状況と同じなので、VATが国境調整を原則として国際的に認められていて、かつ国内でFICAを減税しても他国には関係のなく、各々問題ないことを組み合わせて実行しても問題はないであろうというちょっと詭弁(?)のようにも聞こえるが、理論的には間違っていない主張となる。WTOがこれを飲むだろうか?欧州の法体系の影響が強いWTOではそんな実態よりも形式重視となる可能性が高く、WTOで揉めるのは間違いないように思う。ただ、以前にも書いたかもしれないけど、WTOで争っているうちに10年位直ぐに経ってしまうので、その間に$1 Trillionの歳入があるんだったらダメ元でやってしまう、とチャッカリ考えていた節がなくもない。

DBCFTとVATのもう一つの差異は、VATだの消費税だのは、目に見えてそれがサプライチェーンを経由して価格に上乗せされていき、最終的に消費者が消費地で全額負担することとなる。一方DBCFTは法人税として事業主体に課せられるので、価格に転嫁できるかどうかは明確ではなく、小売業が大騒ぎしてロビー活動しているように、最終価格に上乗せし切れない状況も十分に想定され、そうなると輸入に頼っている企業の収益、キャッシュフローを大きく圧迫することがあり得るということだ。

DBCFTが輸入を罰するというよりは輸入と米国製造を同じ土俵に立たせるという目的を持っている点は以前にも触れた。現状は米国から見た輸入は出荷地では国境調整のおかげでVAT免税、かつ米国側でも仕入コストとして35%の節税効果を持っているので、かなり競争力が高い。他方、米国からの輸出は米国で35%課税され、さらに輸入側で国境調整されるのでVAT課税、とダブルタックスとなり競争力なし、となる。これらの現象を「Made in America」課税と呼ぶこともある。で、輸入はとても有利なので、当然、小売業等はその恩典を享受している。輸入有利の現状を是正し、少なくとも税制面では輸入と国内仕入れを同等にしようと言うのが消費地課税だったんだけど、現状恩典を受けている納税者は、例えそのような恩典自体を是正するのが目的だとしても、当然それに反対し、政治家もそれを無視できない。結局、DBCFTのような大きな改正はできず、輸入が競争力をもったまま今後も時が流れていく可能性が大となる。オバマケアじゃないけど、一旦与えられた既得権を取り上げるのは政治的にほぼ不可能。

次にDBCFTの為替への影響だけど、これは経済学者が口を揃えて力説するポイントだ。すなわち、20%の国境調整で輸入に実質20%課税され、輸出は20%免税となると、ドルは25%高となり、その結果、国内終焉型企業も、輸入業者も、輸出業者も、税引後のキャッシュフローは全員きれいに一致するという説だ。DBCFTの税額そのものは為替がどうなろうとも変わらない。これは輸入や輸出が課税所得の計算に入ってこないから当然だ。では為替によって何が調整されるかというと、ドルベースでの仕入価格そのものが25%ドル高になると従来の80%で済み、税負担を相殺してしまうということだ。輸出もしかり。

25%のドル高は政権の為替政策とは真逆の方向に向かうように見える。また、ドルベースの外貨資産が大きく目減りして、大きな混乱を招く可能性が大。もちろんきれいにDBCFT導入翌日からドルが25%高になるという訳ではないだろうが、経済学的には他の変動要因を排除して理論的に考えると必ずそうなるということのようだ。これは業界の実務レベルと意見が合わない点で、小売業のCEO等に言わせれば「世の中学者が言う通りそんな教科書通りに行ってたまるか!」となるだろう。

という訳で、DBCFTはグローバル化する経済、米国が通商の観点から置かれている立場、OECDのBEPSレポートに見られるような従来からの法人税の限界、を加味して将来の税法としてベストなものは何かという点を熟考して経済学者達により策定・検討されたものだったが、実務的に受け入れるには余りに多くの課題があるということだろう。ちなみに面白いのは、経済学者の中でもUC Berkeleyの学者がDBCFTの著名なオピニオンリーダーとなっているが、UC Berkeleyと言えば、Ann Coulterが話しをしに行くと言っただけで、暴動が起きる米国でも最もリベラルな大学のひとつで(Berkeleyは本来言論の自由を標榜していたのではなかったんだっけ?)、それを共和党の下院歳入委員会が取り入れている点。

国境調整はこれ位にして、次回からは税法改正に他の切り口から触れてみたい。