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トランププランと今後の税法改正動向(2)「国境調整」(2)

Max Hata
前回のポスティングでは、トランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表とその後の税法改正の動きの最初のフォーカスとして国境調整に関して書き始めた。下院歳入委員会が提唱するThe Blueprintの中のDBCFTは法人税に消費地課税という概念を導入しているが、その消費地課税を実現するメカニズムが国境調整と言われるものだ。一般メディアの報道を見るとこの「国境調整」とトランプが余り深い考えなく言及しているように見える「国境税」が混同されて論じられることが多いように思う。

先日イタリアで開催されたG7会議でも、各国の財務長官等が米国が国境調整を検討している点に懸念を表明し、Mnuchin財務長官は「現時点で提唱されている形では賛成できない」といつもの回答を繰り返していた。皮肉にもG7に参加している国で「国境調整」という仕組みを導入していないのはVATを持たない米国のみだ。他の国はVAT(日本では消費税)下で堂々と国境調整を行っており、米国に対する輸出に対してはサプライチェーンを通じて自国VATを免税として競争力を高めているばかりか、逆に米国からの輸入に対しては輸入時点で課税して米国からの輸出の競争力を弱めている。しかもThe Blueprintで提案されている20%の税率と同じ税率を適用している国がほとんどで、カナダのGSTは15%程度で若干低く、日本が8%で一番低い。にもかかわらず、米国が名称は法人税とは言え、内容的には同様の方式を導入しようと検討しているだけで自分たちのことは棚に上げて若干ヒステリック気味な反応をしている。おそらくDBCFTをきちんと理解しておらず、通商政策のトランプ国境税と混同しているのではないかと推測される。前回のポスティングで触れたオクスフォード大学の教授の言う通りだ。

DBCFTの消費地課税、すなわち「DB」部分はその名の通り、米国で消費されるものは、輸入だろうが、国内生産だろうが、サプライチェーンの全過程で創出される価値に米国で20%の課税があり、逆に米国外で消費されるものは、国内生産でも、米国外でもサプライチェーンの全過程を通じて米国では課税されない、すなわち輸出時にサプライチェーン過程で米国に納付された税金があれば、それは戻ってくるというシステムとなる。このコンセプトは日本の消費税も同様だ。現実には米国外で消費される米国内生産のサプライチェーンのDBCFT税負担は即還付されると言うよりもNOLに化ける可能性が高いという問題があるが。

DBCFTのもう一つの骨子となるキャッシュフロー課税、すなわち「CF」部分も法人税としては新しい概念だ。The BlueprintのDBCFTでは、従来の法人税のように会計的な期間損益に課税するという概念から、課税年度内トータルのキャッシュインフローからアウトフローを差し引いたネットキャッシュフローに課税するという大胆な方向転換を提唱している。

キャッシュフロー課税で従来と一番異なるのは設備投資に対する減価償却の必要がなくなることだろう。不況になる度に時限的に導入されてきた100%のBonus償却を、有形・無形の全資産を対象に拡充して、更に恒久化するようなイメージ。その意味では設備投資減税の側面も大きいが、実はキャッシュフロー課税とすることで、DBCFTはDB部分と合わさって疑似VATとなる。すなわち、VATとか消費税の算定時には設備投資に対して支払ったVAT・消費税もその年に仕入控除が認められ、売上から徴収されるVAT・消費税と相殺される。換言すると、VAT・消費税の世界では例え耐用年数が10年の設備を購入しても、それに対して支払うVAT・消費税を10年掛けて仕入控除するという概念は存在しない。これは実質キャッシュフローベースで設備投資を費用化しているのと同じ効果を持つ。逆に言えば、DBCFT下でキャッシュフローベースで課税を行わないと、DBCFTは実質VATに近いと言う主張は成り立たない。したがって、設備投資減税の経済効果を達成する点に加え、キャッシュフロー課税を導入することはDBCFTが狙い通りにVAT同様に機能するための「Must」な要件となる。なので、国境調整だけの導入をキャッシュフロー課税とは別に検討したり、またその逆に国境調整は入れないけど、キャッシュフロー課税の導入は検討したりというのは、少なくとも経済学者や識者が提唱している未来型の法人税であるDBCFTとはかけ離れた姿となり、概念的には全く異なるものとなってしまうと言える。歳入委員会長のKevin Bradyとか下院議長のPaul Ryanとかはそんなことは百も承知だろうけど、政治家とかロビイストがいろんなことを言うので現状では少しでもDBCFTに盛り込まれている特色を出せれば始めの一歩としては上出来と考えているんだと思う。

5月18日に開催された歳入委員会のヒアリングでは経済界からは設備投資の一括費用化は米国での投資を活発とし、延いては雇用促進に役立つと賛成の声が多く上がった。DBCFTのDBの部分は意見が割れるところだけど、CFの部分は概して賛成ということだ。CFだけだとCFTにはなるけど、それだとDBCFTにならない。結局は各納税者、自分に有利な改正案には賛成、不利になるようだと反対、と当たり前の流れになっている。勝者と敗者が存在するのはどのような税法改正にも見られるサガ。敗者の声を聴き始めると大胆な改正は実行できない。

更に、キャッシュフロー課税と引き換え(?)にThe Blueprintにはネット支払利息の損金算入撤廃案が盛り込まれている。利息の損金算入がなくなれば、面倒な過小資本税制とか、アーニングス・ストリッピング規定とかの適用を気にしなくていいので、そもそもグループファイナンスストラクチャーを利用してシステマチックな実効税率のプラニングを多く行っている兆候のない日本企業にとってはその方が総合的に得かもしれない。米国企業、特に不動産業、また意外にも農業に従事する納税者、業界団体からは利息の損金不算入に関して強い反対が表明されている。また、他国から米国に投資しているMNCは米国のような高税率国には最大限のDebtをプッシュダウンしているケースが多いので、支払利息の今後の取り扱いは国境調整の動向と並んで気にしているポイントと言える。ただ、税率が15%だの20%になったら今迄みたいに一生懸命頑張ってアーニングス・ストリッピングする必要性も薄れてしまうけど。

キャッシュフロー課税と支払利息の損金不算入の関係だけど、キャッシュフロー課税とするから必ず支払利息の損金算入を認めることができないということもないように思う。各々独立して規定しても必ずしもおかしくないように思えるけど、一方で、設備投資等を取得時にキャッシュフローベースで費用化させるのであれば、そのファイナンスコストとなる支払利息も認めては二重取りになるとも考えられる。そのため、キャッシュフロー課税と支払利息の損金不算入はセットで考えらることが多い。Mnuchin財務長官の話しを聞く限り、トランプ政権は支払利息の損金算入は温存したいようで、その代わりにキャッシュフロー課税ではなく、従来からの減価償却を温存してもいいと考えているようだ。トランプが不動産業に従事しているからだ、と勘繰るメディアもある。仮に支払利息を損金不算入とするのであれば、AT&TのCFOが主張する通り、各企業は既存のキャピタルストラクチャーを再検討する時間が必要なので十分な経過期間を設ける必要がある。

支払利息の損金不算入は10年間で$1 Trillionの歳入増効果があると言われるだけに、消費地課税およびテリトリアル課税への制度移行時の一括課税、と並ぶ大きな歳入源だ。支払利息の損金算入を温存した形で税法改正を実行できるかどうかは、税法改正がどの程度の財政均衡をベースに策定されるかにより影響を受ける。

キャッシュフロー課税だけど、確かに聞こえはいいし、企業側としては賛成のところが多いとは思うけど、実際に税法に入れる際にはいろいろと考えないといけないことが多い。例えばM&Aで資産買収、または338(h)(10)選択して資産買収かのようにした際には、Goodwillとかも含めて全額費用化されてしまうのか、とか、パートナーシップに現物出資した際のSection 704(c)とかどのように考えるのか、とか。実際に条文にするのは結構難しそう。

という訳で、DBCFTの骨子2つ、すなわち「DB」と「CF」に関してどちらかと言うとメカニカルな観点から触れてみたけど、次回はDBCFTの直面する諸問題等に関して。
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