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トランプ大統領税法改正プラン(5)

前回のポスティングでは4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表を最後までカバーし、ここからは当日のQ&Aの様子。質問内容は専門性に欠けるものが多く税法の見地からは面白いものは少なかったけど、会見内容の確認、メインストリームメディアがどの程度内容をきちんと理解していてどのような点に興味を持っているのか、を図り知る上では興味深い。

最初の質問はもう既にCohnが話した内容そのものなので余り面白くないが、この受け答えを基に401(k)とかの適格退職金への税引前拠出が撤廃されるのでは、と大騒ぎになった。Cohnは明確に退職金関係の拠出は維持すると言っていたので、人の話しをよく聞いていない質問で時間を無駄にするばかりでなく、余計な混乱を招くパターンはいつの会見でも付き物だ。質問は「個人所得税の控除項目として何を残すのですか?」というもの。会見本体ではCohnの担当だった部分だが、Mnuchinが「住宅ローンの金利と慈善団体への寄付金を除いて撤廃する。これは全面的な税法改正だ」と回答している。MnuchinはおそらくSchedule AとかのBelow-the-Line的な所得控除を想定して回答しているものと推測され、Gross Incomeにそもそも入らない401(k)の従業員による拠出額とか、KeoghプランのようにAbove-the-Lineの控除は回答時に頭になかったんではないかと思う。

次も余り意味のないどちらかと言うと嫌がらせっぽい質問。「配当とかキャピタルゲインに対する減税に関して、ミドルクラスを救うというコメントと整合性がないように思いますが、裕福な一部の層の抜け道になるんではないでしょうか?」というもの。

Mnuchinは「ミドルクラスを救う」という部分に過剰反応したのか、こだわり過ぎたのか、チョッとムキになった感じで回答の最初の部分は質問とは関係ない部分でミドルクラス救済を訴えている。すなわち「何と言ったら分かって頂けるか分かりませんが・・」みたいなニュアンスで始まり、「ビジネスに対する15%は中小企業にもそのまま適用されますし、富裕層がこの仕組みを悪用してパススルー経由で低税率の恩典を享受できないよう対策も講じることにしている」と宣言した。で、さすが頭脳明晰の財務長官なので質問に回答していないことには直ぐに気付いたのだろうか、付け足すように「配当所得に適用するキャピタルゲイン税率を20%に戻すことは米国の投資環境を整えるために不可欠だ」とした。

次の質問は最前列に踏ん反り返る形で座っている記者から。「私もパススルーにかかわる同じような質問があります」と切り出した。何と同じよう(=Similar)なのか不明だったがまあいいとしよう。「大統領が選挙運動中に話していた内容では15%の低税率に適格となるビジネスにはフリーランサーとか契約社員も含まれると思っていましたが、それであってますか?テリトリアル制度に変更時の一時課税の税率は?そしてGary Cohn(Directorとかではなく呼び捨て)、既婚者に対する(税率が独身者2人の合算と比べて税金が不利となることがある)婚姻ペナルティーの問題は解決しますか?」と3つ相互関連性のない質問だ。

海外子会社の留保金の一時課税の税率は会見本体発表中気になっていたのでいい質問。トランプは選挙運動中10%と言っていたが、The Blueprintでは留保金が現金で所有されている場合には8.75%、他の資産として海外で再投資されているケースでは3.5%となっている。果たして10%という大統領プランは変わらないのか?この点は米国企業の下にCFC(海外子会社)を持つことが少ない(というか基本的に持つべきでない)日本企業と異なり、Inversionしない限り、全てのCFCを米国傘下に持たざるを得ない米国多国籍企業にとって最重要マターとなる。日本企業は国境調整に興味が集中しているように見えるけど、米国企業はテリトリアル制度への移行に大きな関心を持っており、特に経過措置の一括課税の対象となるCFCのE&P(=米国税法上の配当原資)をどう減額させるかとか、等、詳細なモデリングを基にプラニングを実施している。

多額の現預金を海外に埋蔵している米国企業が多いのでこの手のプラニングは最重要課題だろう。アップルに至ってはナンと2,500億ドル(円ではない)の現預金相当を持っており、9割が米国外にある。EYの監査クライアントなので公共情報のみを基に話しておくけど、2,500億ドルと言えば100円換算でも25兆円だ。WJSによるとこの金額は英国とカナダの外貨準備高の合計より、またWalmartのマーケットキャップより大きいというから凄まじい。この現金をどのように戦略的に使うべきかに関しては外野からいろんなコメントがあるけど、歴史的にアップルは余り大きなM&Aをしていない。Netflixを買収するべきという話しもあるし、いやテスラでしょう、という話しもある。ただ、これだけの現金があるとNetflixとテスラの双方を同時に買収してもまだお釣りがくるそうだ。その昔は破産の危機に瀕していたこともあるのにやっぱり元祖iPhoneをこの世に送り出してくれたSteve Jobsの才能は凄い!

で、Q&Aに戻るけど、質問に対してMnuchinは「経過措置の一時課税の税率だが、下院、上院と今後詳細を詰めてから最終化するべき問題だ。ただひとつ言えるのは極めて低い税率(通常の35%と比べてという意味のはず)となる。契約社員云々という細かい定義は今後の議会との調整を得て条文草案が出てくる時点で確認するべき問題だ」とした。婚姻ペナルティーの部分の回答に登場したと見られるCohnも続けて「Mnuchin財務長官の言う通り、現在詳細は下院と上院とこつこつと詰めている。質問は余りに細部にかかわるもので・・・」とまで言ったところで質問している側の記者が「とても重要なことだ」と口を挟む。Cohnも「確かに重要なのはそうだが、税率を下げ、税法をシンプルにし、フェアなシステムを構築するという基本的な原則を基に細部に亘る詳細は今後明らかになっていく」とした。

次の質問はCohnの個人所得税プラン発表のポスティングの際にチラッと触れたもの。すなわち「所得税率区分を10、25、35%にするという話しだが、累進税率区分のドル額を教えてもらいますか?」。これは当然Cohnの出番だが、「繰り返しになるが、下院、上院と方向性は合意されているものの、現在、膨大な資料、多方面からのインプットを基に詳細をこつこつと詰めているところだ。質問されているような細部にかかわるものは詳細明らかになり次第公表することになる。今日は原則部分を皆様にお伝えしているまでだ」みたいな回答だった。う~ん、税率はそのドルベースの区分が分からないと余り意味ないけどね。 Q&Aとは言え結構説明が長くなってきたので、続きは次回。