米国タックス行く年・来る年(14)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

Max Hata 2017/01/08(日) - 11:04
前回まで9回に亘り政権交代および議会の選挙結果を受けて2017年に起こる可能性が高いと言われている米国税法改正の抜本的な方向性に触れてきた。そのうち直近の7回は、税法改正審議の叩き台となる下院の歳入委員会による改正案「The Blueprint」を詳解してきた。20%法人税、資産取得コストの一括費用化、国境調整、などかなりインパクトのある内容でぜひ実現して欲しい部分が沢山盛り込まれている案だと言える。もちろん、国境調整のように賛否両論となる規定案もあるけど。

一方でThe BlueprintはかなりConceptualな提唱であり、現在70,000ページに至る税法の根本的な変更を僅か35ページでバッサリ切っていることもあり、実際の法制化に当り、検討しなくてはいけないことが山済みとなっている点は過去にも触れた。「The devil is in the detail」と繰り返し表現してきた点だ。米国税法にはこの格言がまさしくピッタリで、一般的な話しとして、税務関係の質問を受ける際、一見単純に見えるので簡単に(=無料で?)回答できるだろうと企業側が勝手に推測しているケースでも、実際には内部で相当な時間、人的な資源を使って複数の確認をする必要があるようなケースが多い。70,000ページのどこに例外の例外のそのまた例外が隠れているか分からないからだ。と、チョッと愚痴みたいになってきたので、ここらで本来のトピックに戻り、今回のポスティングではThe Blueprintの法制化に際して「こんなことは考えてるのかな?」とか「ここはどういう処理になるんだろう?」的な切口で個人的に興味があったり、不思議に思っている点をまとめて一旦締めくくりとしたい。また今後の進展に関しては、1月20日以降の立法プロセスが進んでいく過程で適宜アップデートしていきたい。

まず税率。法人税20%、個人所得税最高33%はいいけどパススルーの扱い部分は若干不透明だ。「米国タックス行く年・来る年(10)」で触れたけど、The Blueprintでは個人事業主を含むパススルーからの事業所得は個人所得税率ではなく、25%という特別税率で課税するとしている。この25%という低税率を「小規模事業」に当るパススルーからの所得のみに適用するのか、それともパススルーからの所得は全て対象となるのか不明で、面倒な検討を避けるためにも後者としてくれるといいけどなと思っている。また、この25%の適用はパススルーオーナー、パートナーに適切な水準の給与を支払った後の残余利益に対する税率とされているが、何をもって合理的な水準の給与と判断するかとう点に関して結局は「Draconian」的な規定にならないことを祈る。ここの趣旨は給与相当は、法人から給与を受け取る被雇用者と同様に通常の個人所得税の対象としようということで、その心は良く分かるんだけど、いくらの給与なら適正かという事実認定でもめる余地があるような税法にしてしまっては又しても税法の複雑化、予見可能性の低さに寄与することとなる。また、この考え方を取るのであれば、給与以外の部分としてK-1からフローしていくる利益が個人に配賦されるケースではSelf-Employment Tax(SE Tax)の適用を廃止するべきだろう。法人は給与を費用化した後で法人税として20%支払って、その後の配当は株主レベルで16.5%課税されるのであれば、法人が認識する所得の二重課税後の実効税率は33.2%となる。これに比べるとパススルーの給与費用後の利益は事業主体レベルの課税がないので25%で終焉すればチョッとマシという位置づけとなるように見える。ただ、K-1からの利益配賦全体がSE Taxの対象となるとすると個人パートナーにとっては金額水準次第でパススルーの旨みがなくなるような気もする。

減価償却の撤廃と資産取得コストの一括費用化に関しては、税法改正後に事業用途に供されるものが対象となるのだろうか?多分そうなるような気がするけど、となると既存の資産は粛々と現行のMACRSで償却し続けるということになる。AMT廃止となるのであれば、AMTとかACEの償却を算定する必要は既存の資産に関しても必要なしとなるのだろうか?そうであって欲しい。

ネット金利の損金不算入は、既存の借入に対するものも含めて一気に適用されるんだろうか?新規の借入に対してのみとかなると計算が面倒なのでこの際、一気に適用してくれる方がメカニカルには楽。でないとお金に色は無いので、旧借入その後のEquityとか混在してくるとややこしそう。

クロスボーダー関係では制度移管時の措置として規定される、既に溜まっている海外子会社の剰余金(E&P)の一括課税の算定はどのようにするんだろうか。すなわち、現金相当の資産に対しては8.75%で他の資産であれば3.5%という点の適用に関して、どの時点の判断となるんだろう?例えば税法改正前の最後の課税年度の終了時点のB/Sで判断するのだろうか?その場合には多くの米国MNCは2016年12月末となるので既に金額が出てしまっている。それとも税法改正時点のB/Sを見るのだろうか?当然その時点の現金相当資産が少ない方が企業にとって有利なので、短期的に資産内容の入れ替えを試みるようなケースも十分に想定される。過去3年平均のような措置となるのかもね。プラスで「Anti-Abuse」的に「この法律の趣旨に反する資産の入れ替えは無視する」とか一筆入るかもしれないし。となるといつもの税法のように込み入ってきてThe Blueprintの目指すシンプルな税法ではなくなる可能性が大。 国境調整に関してはWTOの反応が見物だけど、もし実質「間接税」ですって米国政府が主張するのであれば、会計上もIncome Taxではなくなり、会計原則のASC740は米国連邦法人税には適用がなくなる?っていう解釈も可能となるかも。VATは単純に輸出と輸入の際の話しだけど、法人税となると輸入した後に掛かる国内コスト、例えば米国内の人件費は損金算入できるので、VATとはちょっと異なる。付加価値に占める米国内の人件費の割合は結構高いというデータがあるし。また、輸入取引に課税というVATのコンセプトを法人税に適用する際、現時点では輸入コストを単純に損金不算入にするというアプローチで達成すると想定されているけど、トランプ政権が頻繁に言っている関税徴収と合体させて関税という形で実行することもあり得るのだろうか?

国境調整に関してWTOをもめるようだと長期決戦となる。例えば「米国タックス行く年・来る年(11)」で触れた輸出に税務的な恩典を与えようとしたDISC、FSC,そしてETIという変遷。この戦いには結局10年近い歳月を費やしているので、WTOのチャレンジがある場合その解決には相当な年月を要する。となると米国としては取り合えず国境調整を導入して10年後にダメという最終結果になるのであればそれはそれで受け入れ可能な方向性とも考えられる。何せ国境調整は、テリトリアル化制度移管時の一括課税と並び、大きな歳入源と位置付けられていて、今後10年で$1T(「B」ではなく「T」なので、トリリオン。100円換算で100兆円)の歳入をもたらすと試算されている。これは法人税率に換算しても相当な%だろうから、20%の法人税率を達成するには国境調整の導入がMUSTとなるような気がする。逆に言えば国境調整がダメで、法人税率は28%とか全然面白くないレベルに終わってしまったらThe Blueprintが目指す大胆な改正のイメージが低下することは間違いない。

ナンとこの国境調整、欧州とかのVATではなく日本の消費税をお手本にしていると聞いたことがある。個人的に消費税は全然専門外だけど、もしそうだとしたら日本は相当進んでいるのかもしれない。

国境調整のTrade Balanceとか物価に与える影響に関しては「米国タックス行く年・来る年(7)」で簡単に触れた。すなわち、その影響は中長期的には為替で調整され、最終的には排除されるって説だ。これは国の将来の輸出のPVは輸入のPVと同じになるはずなので為替がそうなるように調整されるからということらしいけど、本当?って感じ。どれくらいのタイミングでそんな調整が起こるか?そもそもマーケットでは調整に必要なデータをどのような収集してどのように分析しているのだろうか?マクロ経済は難しい。ただ、マーケットはEfficientなので為替レートにこの調整は既に織り込まれている、または毎日この点を加味して為替が動いているって考える向きもあるようで、そうであれば市場のメカニズムって凄い。

連邦税法改正に伴う今後の各州の対応も見物だ。基本的に州法人税算定のスタートポイントは連邦の課税所得のケースがほとんどだけど、連邦の課税所得算定法がこれだけ変わってしまうと、連邦と異なり財政を常にバランスしないといけない州側はSales Taxのような連邦とは関係ない税制に歳入を頼らざるを得なくなるかもしれない。この辺りの州の苦悩は2008年3月27日のポスティング「ドル紙幣を刷れない州の苦悩と「Decoupling」」を参照して欲しい。

2017年1月20日にトランプ政権が誕生するが、すでに議会ではオバマケア撤廃、税法の抜本的改正に向けて様々な動きがある。基本的には「Party Line」で方向性は分かれるんだろうけど、改選を控えた民主党議員の中には自分の選挙区でトランプが勝っているケースも結構居る。となると、それらの民主党議員が減税に反対し通せるのかは不明。2017年の議会、特に夏までの動きは目が離せない。

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