米国タックス行く年・来る年(10)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

Max Hata 2017/01/02(月) - 21:56
いよいよThe Blueprintも肝心の事業所得に対するアプローチに到達する。

まずは米国法人税の高税率に関して。1986年の税法改正で米国法人税率は46%から34%と大胆に下がったが、その後30年間、米国法人税は同レベル(実際には35%に若干上昇)を保っている。その間に、1986年の税法改正当時は平均47.2%もあったOECD加盟国の法人税率平均はナンと24.8%に下がっている。日本ですら30%だもんね。相対的に米国の魅力が落ちていることとなる。そこでThe Blueprintでは米国史上一番大きな減税となる法人税20%を提唱している。トランプ案は15%で、税率はトランプが勝ってくれるといいけどね。

ここで面白いのは大企業や富裕層優遇と言われないよう、散々小規模事業主(Small Business Owner)等に対する恩典を強調している点だ。この点に関連し、米国の事業の95%が個人事業主、パートナーシップ、LLC、S法人の「パススルー」主体を通じて従事され、また事業所得の50%以上がLLCを含むパートナーシップからのものだとしている。現状ではパススルー所得は基本的に最終的には個人に課税されるため、二重課税はないが、最高39.5%(プラス自営業税)の高税率に晒されている。The Blueprintでも法人税率は20%としても、パススルー所得は個人レベルで課税されるとなると最高33%の課税となってしまう。それでは事業主が不利ということで、The Blueprintでは個人事業主を含むパススルーからの事業所得は個人所得税率ではなく、25%という特別税率で課税するとしている。The Blueprintから必ずしも明確でないのは、この25%という低税率は「小規模事業」に当るパススルーからの所得のみに適用されるのか、それともパススルーからの所得は全て対象となるのかという点だ。この際、シンプルに後者だといいんだけどね。その際にはパススルーはオーナー、パートナーに適切な水準の給与を支払ったと扱われ、その分は法人から給与を受け取る被雇用者のように通常の個人所得税の対象とし、残余利益に関しては25%の特別税率の対象にするとしている。であればいっそのこと、法人税率と同じ20%にして欲しいような気がする。

この手の扱いは一見シンプルだけど実は何が合理的な水準の給与かという算定とか結構面倒かも。この規定に代表されるようにThe Blueprintでは税法がものすごくシンプルになるように設計、意図されているようだけど、かなりハイレベル、すなわち大枠の議論で終わっているため、まさしく「the devil is in the detail」という感じは否定できない。AMTの減価償却計算とかやっていても本当にバカバカしい限りなので、方向性としては絶賛するに値するが。ちなみに、この「Devil is in the detail」、日本語で「悪魔は細部に宿る」とか訳されているのを見たことあるけど、全然意味が伝わらない感じ。ビジネスの文脈で使われる際には、「一見簡単なことも詳細を詰めるとそんなに簡単ではない」という意味になる。M&Aの契約のTermの交渉を簡単に済ませようとしたりする際に良く使われる言い回しだ。

以前から何回も触れているが、事業資産に対する償却(Depreciation+Amortization)は撤廃され、全て即費用化となる。確かに現状の償却はその区分法により償却期間が大きく異なるし、内装がリース期間にかかわらず39年だったり、AMTがあったり分かり難いことこの上ない。これらの作業が無くなるだけでも相当コンプライアンスは楽になるだろう。費用化には土地取得コストは含まれないとされる。となると建物とか取得した際の取得コストの土地・建物の配賦は今以上に重要検討項目。その代わりにネット支払利息は損金算入できなくなる。ネットの話しなので、利子所得があれば、その範囲で支払利息は費用化できるが、それを超えては費用化ができない。となると面倒なSection 163(j)のアーニングス・ストリッピングとか、言語道断に難しいFunding規定とかを含むSection 385の過少資本規則とか、Financingプランを使ったHybridだの、Reverse HybridだののBase Erosionとか一切検討の意味を持たなくなってしまう。こんな伝家の宝刀を抜いてしまうとは・・。

繰越欠損金(NOL)の扱いも面白い。繰越は永遠に認められ、しかも毎年物価スライド調整的に利率を乗じた金額を後年に繰り延べできる。一方で繰り戻しはなくなり、また繰り延べの対象となる課税年度で使用できる金額はその年度の課税所得の90%に限定される。現状のAMTのNOLみたいだ。未使用のNOLに金利を付けてくれたりしてなかなか親切で大胆。

現状の税法に規定される諸々の「Special Interest」に対する控除・クレジットは全廃が提唱されている。その槍玉に上がって例示に登場しているのがSection 199の製造者控除。一定の活動に従事する法人は法人税率が実質35%から32%程度になり、個人にパススルーされる場合には39.6%が36%程度になるが、適格かどうかの判断が複雑で、適格とならないケースでは納税者が不利な扱いとなり、適格となる場合も相当なサポート文書化が必要と嘆いている(実際に本当だと思う)。そこでSection 199を含む特別な活動、事業に対する恩典は撤廃し、その代わりに税率を思い切り下げて、どのような活動に従事するかは議会が決める税法ではなく、事業主の才覚で決めて欲しいとしている。

なかなか立派な提唱だが、前述の通り、そんなに間単に行くかは少し心配。まさに「the devil is in the detail」。次回はいよいよ斬新な「消費地課税」に関して。

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