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スピンオフとホットドッグ

Max Hata
スピンオフが適格となり非課税となる場合の納税者側の恩典は大きい。1986年のTax Reform Actに基づく税法改正で「General Utilities(1935年の最高裁判例で法人レベルの課税なく資産を株主に分配してステップアップできた考え方)」が撤廃されて以来、含み益を持つ資産を法人レベルの課税なしで法人外に出してしまうプラニングは適格スピンオフ、またはInnovativeなSection 351 を利用した取引等、かなり限定されている。正確にはスピンオフという用語は、既存株主の持分%に応じて均等に分割対象となる法人株式を分配する取引で、一部の株主の持分を償還する形で分割法人を渡す形態(Split-Off)、分配する法人が複数の法人株式を分配して清算されてしまうもの(Split-Up)というバリエーションがあるけど、ここでは一括してスピンオフと呼んでおく。

スピンオフの規定は1924年という連邦税が憲法で認められるようになった1913年から比較的直ぐに誕生している。その後1934年には一旦廃案になったりと紆余曲折があり1954年に現在の規定に近いものとなった。ただ、General Utilitiesが撤廃される1986年まではそもそも法人側で分配の際の含み益に課税がなかった訳なので、長らくフォーカスは分配を受け取る株主側の扱いのみだったことになる。なので、今日の税法Section 355を見ると、分配する法人側の扱いがSection 355(c)という後から付け足されたような変な場所にあるのは、本当に後から付け足されたからだ。

スピンオフが適格となると、法人レベルばかりでなく分割される法人の株式を受け取る株主レベルでも非課税という恩典が得られる。このダブルベネフィットはかなりのメリットとなるが、それだけに通常の買収型の適格組織再編と比べても更に厳しい要件が規定されている。要件のひとつに「Active Trade or Business(「ATB」)」規定というものがあり、スピンオフを行う際には、分割の対象となる法人および分割をする側の法人の双方に過去5年従事していたATBが存在しないといけないとされる。分割の対象となる法人は新規設立のケース(D+355)も多いが、その場合も、新設法人にスピンのために現物出資される資産が過去5年ATBであったものが含まれる必要がある。過去5年に課税取引で取得されたATBは数えてもらえないので付け焼刃的にATBを他から買ってくることは基本できない。

Activeに従事している異なる事業を分割するという取引には事業目的が存在することが考えられ、タイトな条件を充たすケースでは適格スピンオフとして非課税とする措置にも正当性が認められる一方、単に含み益を持つポートフォリオ投資の株式とか債券とかの投資資産を株主に分配する取引を非課税とする理由は余りなく、ATBも、他のスピンオフの条件、例えばDeviceとかBusiness Purposeとかと並び、どのような分割が適格スピンオフに相応しいかどうかの判断のために規定されているものだ。

ATBが存在する法人にも余剰資金とかの運用で投資資産を結構持っているケースもある。また、Split-Offの局面では各株主の相対的な持分%に分配株式の価値を調整する目的で事業資産以外の投資資産を盛り込む必要もあるケースがある。でも、ほとんどの資産が投資資産でATBがとても小さい場合は適格スピンオフになり得るだろうか?面白いことに従来はATBとなる事業のサイズにかかわる要件はなく、他の適格要件を充たせば、どんなに小さな比率の事業でもATBとなることができると考えられていた。この点を利用し、巨額の投資資産にチョッとした事業をミックスしてスピンしてしまうプランが横行しており、その究極となるはずだったのが、アリババ株式を持つYahooによるスピンオフだ。結局IRSが問題視して中止になってしまったけど。この手のプランを実行する場合に、スピンされる法人(または逆にスピンする側の法人)に形式的に付される小さな事業は、米国税務業界では小さな事業の代名詞に使われる「ホットドッグ・スタンド」と揶揄されていた。

不思議なことに実はBusiness Purposeと並んで適格スピンオフ要件の要となる「Device」要件(正確には配当課税を回避するためのDeviceではいけないという要件)には、ATBの比率が低い場合にはDeviceと認定するひとつのファクターとすると明記されている。IRSはなぜここを利用してYahoo的な取引を取り締まらないのかチョッと不思議だけど、多分、上場株式の一般株主に対する分配はDeviceとはなり難いファクターのひとつとされており、そのせいかもしれない。

IRSは近年、この手の取引に不快感を持っており、弁護士業界の集まり等でIRS准主任弁護人とかが「スピンオフの趣旨にそぐわない分配が適格となっており、何らかの対策を練る」といった趣旨の発言を繰り返してきた。2015年にはRev. Proc.とかNoticeとかが発表され、IRSがこの点を見直していることが知らされ、そして遂に財務省規則案が2016年7月に公表された。

ナンと公表されたその日が米国「全米ホットドッグの日(National Hot Dog Day)」の翌日だったのは偶然だろうけど、なかなか洒落になっていて笑えてしまう。ホットドッグはしばらく食べてないし今更あんまり敢えて食べに行く気もしないけどこれを機にたまには食べてみてもいいかも。みんなどこで食べてるんだろう?NYCだったら月並みだけどBrooklyn発祥のNathan’sとか、Lower EastのKatz’sとかなんだろうか。それともそんなのはOld Schoolで今ではShake ShackとかホットドッグとしてはHigh-Endなところに行ってるのかもね。Los Angelesのダウンダウンの西のBeverly BoulevardにあったチリバーガーのTommy’sとか、Sunset Boulevardの列車の形してたCarney’sとか、今でもあるのかな。なんか考えただけで胸焼けがしてきた。やっぱり夕食は違うものにしておいた方が無難かもね。

次回はこの規則案とYahoo取引に関してもう少し触れてみたい。
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