日米租税条約改正は一体いつ発効?(3)

Max Hata 2016/06/11(土) - 23:05
前回は、米国で5年間という長期間に亘り租税条約が一切批准されていないという異常事態の中心人物であるRand Paulの父、Ron Paulの話しをしたが、当のRand Paulはどんな政治家なのだろうか。またなぜ租税条約ごとき(?)にそれほどの目くじらを立てているのだろうか?

Rand Paulも父同様、医学部を卒業して眼科医をして開業していた経歴を持つ。父のRon Paulの政治活動を手助けするうちに自らも政治にかかわるようになり、現在ではケンタッキー州の上院議員だ。共和党の中でも米国の憲法が意図していた小さな政府と最大限の個人の自由を尊重するというまさに父Ron Paul譲りの主張を持つ保守派となる。すなわち、LibertarianとかTea Partyの一派と考えていいだろう。2016年の大統領候補であったが、トランプ旋風に圧倒され他候補者同様、2016年前半には戦線を離脱せざるを得ない状況となった。

これが租税条約とどのように関係してくるかと言うと、条約には通常、米国と外国政府との間で情報交換ができる規定が盛り込まれている。これがPaul先生の信条に反するところとなる。すなわち、個人の自由とか権利が必ずしも米国憲法下のように保障されていない外国に米国市民の情報が流れたり、また圧制抑圧的な国の政府が自国民の情報を米国から入手して政治的に利用したり、と言う点が米国憲法の趣旨に反するというのが基本的な問題点となる。確かに外国で迫害されているような者が米国に避難していたり、投資をしていたりするケースは十分に想定される。また、外国政府による情報収集は実質、捜査令状のない押収捜査に当たると考えられる部分もあり、個人の自由を侵害する悪の手となり兼ねないというものだ。

このRand Paulが居るおかげで、近年の条約はまずは上院外交委員会を中々通過することができない。ただ、ここは何回か突破している実績がある。日米租税条約の改訂議定書はそもそも2015年夏までオバマ大統領が上院外交委員会にすら回していなかったという不手際があったが、2015年秋に上院外交委員会では一応可決されている。他の条約はその前の年にも同様に可決されている実績がある。ちなみにこの決議をした2015年10月29日の上院外交委員会だが、ナンとRand Paul先生がDC以外で大統領選挙の共和党の討論会か何かに出席している隙を見計らって可決したという中学生レベルの戦術が使われている点がおかしい。

Rand Paulが大統領候補であった一時期、もしかしたら条約に対する頑なな態度が軟化するのではないか、と思われる節があった。彼が情報交換に反対するのは米国の情報が秘匿安全性に欠ける外国に漏れるのを懸念してのことだが、情報交換規定には逆にスイス等の国との情報交換で米国市民による脱税関係の情報も入手できるという側面がある。一部のメディアがこの点に目を付けて、Rand Paulは金持ち脱税の幇助をしている、という趣旨の非難記事を展開したことがあった。これを受けて、他の上院議員一部が仲介する形でRand Paulの顔を立てながら条約の批准が行われるような策が模索された。ところが大統領選挙から離脱してしまい、今更このような方向転換をする必要がなくなってしまったため、また振り出しに戻ったような状況だ。

2015年10月29日に上述の通り、Paul先生が遊説のためOut-of-Town中に他の条約と並び、日米租税条約の改定議定書も上院外交委員会を通過し、財務省もTechnical Explanationを公表したりしたので、「いよいよ批准間近か?」という憶測が一部には流れていた。実際には事態はそんなに甘くない。この後のプロセスとして、上院外交委員会が再度招集され、そこで上院全体の審理に回すかどうかの検討が行われる必要があり、上院に回された後、上院で批准が可決されると、次に大統領の署名が行われ、その後、日米で批准書の交換が行われた時点で初めて発効となる。実に面倒で長いプロセスだ。

一旦上院の本会議に回ると、批准は2つの方法のどちらかで可決される必要がある。1つは「全員一致の書面決議」という方法。これは一人でも反対する者が居ると成り立たない。で文字通り、一人反対しているPaul先生が居る限り、この方法は使えない。もう1つの方法は議場での審理の末、「Super Majority(特別多数決)」、すなわち2/3以上の投票で可決するという方法だ。こちらはPaul先生一人の反対があってもテクニカルには可能な方法と言えるが、議場での審理はかなりの時間を要するという事情があり、他に切迫した審理事項が山済みであろうと推測される上院で租税条約の批准に多くの時間を割くという余裕、インセンティブは余りないように思う。現に2015年はそのまま散会となってしまい、そうなると2016年には再度、上院外交委員会での審理をまた一からやり直す必要があり、堂々巡りとなってしまっている観が強い。

ここまで批准ができないと当然、現状で米国とまじめに条約の締結交渉をしたり、改正交渉をしたりという意欲は相手国側では薄れてくる。財務省はBEPSに対抗する形でModel Treatyの改訂を発表したり意欲的だが、肝心の議会がこの調子では、Model Treatyの内容を反映させる新しい条約に合意したり、また仮に合意したとしても批准したり、するのはいつのこととなるか全く分からない。Rand Paulの情報交換反対の手綱が緩まる気配がない状況で、日米租税条約改定の批准見込みは現時点では一切立っていいない今日この頃でした。
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