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米国過少資本税制規則とうとう最終化

Max Hata
結局みんなが言ってた通りだった。とても最終化に耐え得るとは思えない挑発的かつ越権行為的な規定満載の過少資本税制規則案が、緩和措置は追加されたとは言え、Funding規定とか入ったまま骨子的には規則案を踏襲する形で10月13日に最終化された。規則「案」と異なり最終規則なので規定される発効日より法的な効果を持つ。

まず驚かされるのがそのボリューム。規則案は前文含めて120ページであれも読むのに時間掛かったけど、今回はナント実に518ページ!その辺の小説より長い。

それにしてもこれだけ最終化が待たれていた規則も近年にはないだろう。まるでBeatlesとかの超一流アーティストの熱狂的ファンが次のアルバム発売を待っているように、税務業界一同、財務省高官の発言に一喜一憂して、その内容を垣間見ようと必死だった。 Beatlesは僕が小学校低学年の頃には解散してしまったが、友達のお兄さんが詳しくて、最後のLPが出るらしいとズッと騒いでいたのを覚えている。お兄さん曰く、BeatlesのJohn LennonがYokoって日本人に騙されてBeatlesが解散してしまうってことだった。未だそんなに物事シンプルでないと理解する前の歳だったので、確かにちょっと魔女みたいなYokoが悪者に見えていた。で、待ったあげくにLet It BeというLPが発売された。そのお兄さんが手にした新品のレコードのジャケットからはなんとも言えないいい匂いがしてたのがまるで昨日のよう。昔のLPには必ずジャケットにタスキみたいなのが付いてて変な日本語タイトルみたいなのが書いてあったけど、そこに「さようならビートルズ。最後の云々・・」みたいに書いてあったのを今でも鮮明に覚えている。ちなみにBeatlesと言えば、バンド前期にツアーしてた時代のドキュメンタリーフィルムが最近公開されている。映像はほぼ見たことあるもののコレクションだけど、音質が格段に改善されていて結構良かった。マイナーな劇場でしかやってなくて、Audienceの年齢が高いけど(自分も・・)、好きな人にはお勧め。それにしても彼らはいつ見ても格好いい。

最終規則発行の「X-Day」は最後まで極秘扱いだった。当初はLabor Day(9月前半)と言われ、それが過ぎると10月1日と言われていた。でも10月1日って土曜日だけど・・、って不思議だった。案の定10月1日もHoaxで、そのまま何もなく過ぎそうだったんだけど、その時点で規則は財務省から大統領府にある行政管理予算局(OMB)の内部局であるOffice of Information and Regulatory Affairs(OIRA)に回されるという新局面を向えていた。

このOIRA(オイラ?)、情報規制局とでも訳すのがいいかもしれないけど、各省庁が発行する規則をレビューして場合によっては差し戻したりするところ。基本的に90日以内にレビューを終えるということになっている。OIRAに規則が回されたということは財務省側としては規則を最終化したという意味を持ち、その時点で規則は90日以内に最終化される、または差し戻されて長期化、等の可能性があり、いろんな展開を深読みする者が後を絶たず戦々恐々な状況となった。

でも結果としてはOIRAは数日でレビューを完了したことになる。518ページの長編を。OMBとかOIRAとか言っても所詮ホワイトハウスに属するということから最終的に民主党として選挙前に何が何でも最終規則を発行するというポリシーに影響されたのかも。

で、最終規則だけど、挑戦的な規則案の内容に対して納税者側から数多くの「Thoughtful」なコメントが寄せられました、と財務省は言っている。そして、こららのコメントに対しては「CarefullyにConsider」したとのこと。メジャーなコメントに対しては財務省側の反応・対応が記されている。余りに読み応えがある長編力作なので今後時間を掛けて解析していかないといけないけど、まずは規則案からの代表的な変更点に関して取り急ぎ触れてみたい。他のも細かい変更等あるのであくまでも速報的に理解して頂きたく。

まず一番目に付いたのは文書化要件の適用開始時期の延期。規則案では規則最終化時点以降のローンが対象とされていたけど、これが最終規則では2018年1月1日に延期。更に規則案では融資時点から30日以内に同時文書化することが義務付けられていたけど、最終規則では申告書提出までに用意されていれば同時文書化の要件を満たしたとされる。まるで移転価格の文書化だけど、申告タイミングになるとどうしても申告期限ギリギリに用意されるような慣習となり、Busy Seasonの負荷がますます高まりそうでチョッと心配。

また、規則案では文書化がないと問答無用にローンがEquityになると規定されていたが、ここも若干緩和され、グループが一般的に文書化要件を守っているのであれば、個々のローンに文書化がされてなくても、即Equityとなるのではなく、反証可能な推定事実としてEquity扱いとされる。すなわち、推定事実は納税者がConvincingな文書以外の事実関係をもって反証可能ということだ。ただ、これは文書化を無視しても大丈夫ということではなく、あくまでも通常は文書化要件を守っている納税者にのみ与えられるBreakなので、文書化を完全に無視しても大丈夫という話しではない。

次に、最終規則では規則の対象となるローンが米国の事業主体が借り手となるケースに限定された。規則案では80%の資本または議決権で結ばれる全世界グループの事業体間の全てのローンが対象とされていたが、これは例えば、UKとオランダとか、シンガポールからマレーシア、とか米国の支払利息とは一切関係ない局面にも厳密に言えば規則が適用されることを意味していた。となると、これらのローンに関して米国規則に基づく文書化をする者はいないと思われることから、それらのローンは全て米国税法の目から見るとEquityとなる。「米国の納税者じゃないから関係ないじゃん」って思うかもしれないけど、実はFunding規定等の適用において局面によってはとんでもない結果となることがあり得た。ほぼ実務的に対応不可能と考えられていただけに正式に対応しなくて良かったのは一安心。

また、意外だったのはひとつのローンを部分的にEquity、部分的に借入れと扱う権利を明確にしていた規則案は撤廃され、その権限は将来の検討に委ねるとしていること。このBifurcation(二分化)規定はかなりその意味が詳細に説明されていたので、あっさりと撤回されてしまったのは、やはり、例えば$100Mのローンのどの部分をIRSがEquityと認定するなかっていうのは余りに議論のあり過ぎる事実認定だということだろう。

規則案の中でも一番評判が悪く、かつSection 385で議会が財務省に与えている権限を超えていると考えられるFunding規定はそのまま最終規則でも生き延びている。ただ、配当に関しては2016年4月4日(規則案が公表された日)以降かつEGグループの一員であった期間のE&Pを超えなければ、それを借入れでファイナンスしていても問題がないとされる。規則案に規定されていたFunding規定の考え方をまともに適用すると、ひとつのローンがFunding規定に基づきEquityとなると、そのローンの返済がRedemption(株式償還)となり、グループ間のRedemptionは基本Distributionとなることから、それが他のローンをEquityに変える、というドミノ効果があると恐れられていた。最終規則ではFunding規定のドミノ効果的な適用はない点が明確にされている。

という訳で、ここ5ヶ月のローラーコースター的な展開は終わり、今後は最終規則の分析、対応アクションという新フェーズに移行していく。

ちなみに規則案が出た後の日本企業と外国企業の反応の温度差も興味深かった。日本企業以外のMNCの反応は新規則下で今後どのようにアーニングス・ストリッピングをしていこうか、というものだったが、従来から「きちんと?」科学的にアーニングス・ストリッピングを実行していない日本企業は文書化にどう対応するかという点が主たるフォーカスだった。Base ErosionしていないのにBEPS対応に追われる日本企業の構図とそっくり。日本では財務省がCFC課税を強化すると言ってるけど、米国企業と比べるとCFCを悪用しているケースは極端に少ないように思う。ただでさえ国際税務室のリソース確保に苦労している日本のMNC。今後どのように国際課税を管理していくかは大きなチャレンジだろう。
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