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Inversion(11)

Max Hata
前回は分母を膨らませるStuffingとそれに網を掛けるAnti-Stuffingの話しをした。今回は分子。分子となるのは、統合の際の米国企業(Inversionしようとしている主体)の価値となり、こちらは逆方向で小さい方がいい。分母を大きくするのをStuffingというのに対し、こちらはSkinny Downとか言われたりする。Skinny Downは再編前に米国企業が通常の配当より大きな金額を特別分配して時価を圧縮するという手法で実行されることがほとんど。

前回のポスティングで触れたAnti-StuffingはSection 7874とSection 367の双方に一応、それを取り締まる規定が存在するので、基本的にはその規定の適用有無が勝負となる。一方、Skinny Downに関してはSection 7874下では、Stuffingを取り締まる規定がそのままSkinny Downにも適用できるシステムになっているが(特別配当も要はSection 7874を回避するための資産移動なので)、面白いことにSection 367にはAnti-Stuffing規定は存在するが、Skinny Downを取り締まる規定が盛り込まれていない。

Section 367とInversionのサガは前回までのポスティングで散々触れているので、詳細はそちらを見てもらいたいが、Section 7874と異なり、Section 367は国内法で非課税となる株式交換に関して、旧米国法人の米国人株主が50%超の持分を継続してしまうと株主レベルで課税になるというものだ。実はSection 367には株主レベルで非課税となるためには、この50%の持分条件に加えて他に3つ(5%テスト、ATBテスト、Substantialityテスト)満たさないといけない条件がある。そのうちのひとつ「Substantiality」規定は、統合相手の外国企業のサイズが米国企業のそれと比べて対等レベルにないといけないというものだ。ちなみにSection 7874は%持分要件を満たすと課税、という形で規定されている一方、Section 367では要件を満たすと非課税という形で法律が構築されており、適用時に%が「以上」「以下」「超」「未満」ならどちらの結果となるかという判断が極めて難しい。Section 367全体に例外の例外、または更にその例外というのが多く(いい例が組織再編の資産移管を取り締まるSection 367(a)(5))、それが規定を著しく難解なものにしている。

統合前の多額の分配はSection 367目的で50%持分テストに合格するのを容易にするばかりでなく、更にSubstantialityテスト上も適格とし易い効果を持つ。Section 7874目的では明らかにInversionと絡んだ多額の分配は規定上でアウト(すなわち分子に加算されてしまう)となるため、Section 7874の適用を阻止するには、別取引として位置付ける等の工夫が必要となる。一方でSection 367に関してはSkinny Downを取り締まる規定そのものが存在しないことから、取引当日までに法人の相対的な時価がきちんと調整されていればSection 367の抵触はないこととなる。

前回までのポスティングを読んでくれた方は「でも、Section 367はInversion時には余り誰も気にしないので、Section 7874目的でダメであれば余り意味がないのでは?」と思われるかもしれない。それは基本的にその通りなんだけど、実は稀にSection 367を気にするケースもあり得る。もちろん、Section 7874目的にSkinny Downする場合には、Section 367よりもハードルは高く、Skinny DownとInversionを紐付けられないような周到なプラニングが求められる。

Section 367目的でSkinny Downを堂々と行って見事にInversionしていった有名なケースにValeantとBiovailの統合がある。この統合はSkinny Downの「ポスターチャイルド」的なケースなので次回、若干詳細に触れたい。
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