リタイアメントプラン

社会保障(日本の国民年金に相当)は減っていき、企業年金は既に時代遅れとなりました。自分の老後資金は自分で用意しなければならない時代です。リタイアメント資金を貯めるための仕組みを理解して、老後に不安がないようにしましょう。

リタイアメントプランの必要性

リタイアメントプランとは何か

Retirement Planとは直訳すれば「老後の計画」です。しかしアメリカではRetirement Planと言えば、老後資金を貯めるための税法上の優遇措置のことを指します。具体的には401(k)やIRAと言う名前がついている金融機関で開く老後資金口座のことを指します。

リタイアしたときにどのように収入を確保するかを自分で考えることが重要です。自分で考えて老後資金を用意するために、政府が税金を優遇してくれる口座がリタイアメントプランです。

この章ではなぜリタイアメントプランが必要なのか解説していきます。

なぜリタイアメントプラン?

誰に頼るのか、それが問題

なぜリタイアメントプランを考えなければいけないのでしょうか?それは、老後、仕事を辞めてもできれば楽に暮らしていきたい、と願うからだと思います。社会保障(日本でいう年金)は当てにできませんし、アメリカが高税率の超福祉国家になる確率は低いでしょうから、仕事をしないでも暮らしていけように「何か」に頼らなくてはいけません。その「何か」を考えるのがリタイアメントプランです。

「何か」を自分で用意しておけば「仕事をしなくても楽に暮らしていける状態」になり、それがFinancial Independenceであることに他なりません。つまり、老後に頼れるのは自分の資産なのです。もちろん、家族(主に子供でしょう)のサポートや社会保障など政府の補助はあるでしょうが、それだけでは十分ではないでしょう。

日本との比較

アメリカには社会保障(Social Security)があり、日本で言う国民年金や厚生年金と同等の役割です。日本も年金の将来が不安視されていますが、アメリカでは社会保障は2041年には資金がなくなると予測されています。実際には給付金の減額や、社会保障税の増税で対処することになると思いますが、それでも社会保障だけで暮らしていける保障はありません。

企業年金(Pension)や退職金などはどうでしょうか?アメリカの大企業であれば企業年金がある場合もありますが、多くの企業が年金制度を持ちません。また、あったとしても中止したり、凍結したりする企業が相次いでいます。一般にアメリカの企業には退職金制度もありません。日本では企業年金や退職金があり、年金を補うことで生活していくことができます。しかし、アメリカではこのパターンは存在しないのです。

歴史的な変遷

以前はアメリカ企業でも年金制度が一般的でした。しかし1978年にアメリカ議会は税法にセクション401(k)を追加し、従業員一人ひとりが自分で老後資産を運用する制度ができました。一般に「401(k)」と呼ばれるリタイアメントプランはこの税法のセクション番号のことです。元々は役員などが対象だった401(k)ですが一般社員にも提供されるようになり、広まっていきました。

この401(k)は企業にとっては年金を運用するよりも費用が少なくて済むので、年金を止めて401(k)だけを提供する企業が増えました。企業が年金資金を運用して従業員の老後資金を用意してあげるのではなく、老後資金の貯蓄の責任が個人に移ったのです。企業にとっては運用責任から逃れられ、必要な資金も少なくてすむメリットがあります。ところが個人にとっては資産運用のプロでもないのに自己責任で老後資産を運用しなくてはなりました。好むと好まざるとに関わらず、老後資産の管理責任者になってしまったのです。

自分で積み立てる必要性

企業年金は会社が従業員のために老後資金を積み立ててくれるものでした。企業年金に取って代わった401(k)では従業員自らが自分の給料の一部を積み立てなくてはなりません。勤め先に401(k)などがない場合は自分でIRA(Individual Retirement Accounts)やRoth IRAと呼ばれる制度を使って積み立てます。これらの積み立ては一部のケースを除いて自分でしなければなりません。何もせずにいると老後の資金はまったくなくなってしまいます。老後資金は自分を頼らなければならない時代です。

積み立て期間

いつ始めるのか?

それではリタイアメントプランはいつ始めればいいのでしょうか?リタイアなんて先のこと、まだまだ考えなくてもいい、と思っている人はいませんか?リタイアメントプランで重要なのは時間です。ですから、プランを始めるのは今すぐ!がベストなのです。早く始めれば始めるほど、リタイアメントプランの効果が大きくなります。

可処分所得の一定化

詳しい説明の前に、なぜ早く始めるほうが良いか考えて見ましょう。22歳で働き始め、、計画としては67歳に定年し、その後は仕事をしないで暮らしていくと考えて見ましょう。重要な考え方としてリタイアメントプランは働いている間とその後の生活レベルを一定に保つための役割があります。働いている間の労働収入をすべて使ってしまった場合、老後は社会保障だけに頼ることになり、可処分所得が一気に減ってしまいます。

可処分所得が減ってしまえば当然、生活レベルも下げざるを得ません。

多くの人は働いているときでも老後でも一定の生活レベルを保ちたいでしょう。まったく同じではなくても老後は楽に暮らしたいものです。そのために働いている間の収入を老後のために回す必要が出てきます。これを簡単に行うための方法がリタイアメントプランの活用です。

リタイアメントプランの利点

老後のための資金を取っておくだけならリタイアメントプランではなく普通にお金を貯めても構いません。しかし、リタイアメントプランには次のような特徴があるため、アメリカで暮らしていく人はぜひ活用するべきです。

税金の優遇措置

リタイアメントプランでは普通に資金を運用する場合と比べ、税制面での優遇措置があります。アメリカ政府はこういった優遇措置を設定することで自分で老後資金をためることを推奨しています。税金の優遇措置は主に次の2つのタイプに分けることができます。この2つのタイプの違いは重要ですので、自分がリタイアメントプランを選ぶ際にはどちらにするか、または両方を状況に応じて使い分けるか、などを考えることになります。

税金の先延ばし

税金の先延ばし(Tax Deferred)というのは、今、収入に掛かる所得税を払わずに、将来払うことにする、という意味です。給与の一部、例えば$3,000を401(k)に拠出したとします。この$3,000は本来、給与ですから税金が掛かるはずです。しかし、401(k)に拠出したことにより、税金を計算するときには収入が無かったとみなしてくれ(=控除できる)、その分、所得税が低くなります。税率が28%の人は、$840分の税金が減額されます。定年後、プランからお金を引き出したときに、そのときの所得に応じた税率で所得税が課税されます。

Tax Deferredという考え方には賛否両論があります。税金を先延ばしにする事によって、働き盛りで収入が多いときに、高い税率で収めずに済み、得だ、という意見があります。一方、老後に収入が減るとは限らない、逆に税率が分かっている今、税金を払って引き出すときは非課税のほうがいいという考えもあります。また、「老後は労働収入が減るから、税率も下がる。だから先延ばしのほうがいい」というのは「老後に貧乏になるためのプランだ」という人もいます。Tax Deferredだけを見ると、どちらも一理あり、結局、老後になってみないと分からないことになってしまいます。

運用益に対して非課税

給与の一部を拠出してから老後に引き出すまでは、運用して配当金や利息、キャピタルゲイン(値上がり益)の形でを得ることができます。普通にお金を運用すると配当金、利息には税金がかかりますが、リタイアメントプランで運用している資金には税金が掛かりません。運用している最中に利益に税金が掛からないので、運用先の変更を税金を気にせず行うことができます。例えば普通の投資口座でファンドを売り買いすると、売ったときに発生した利益に対して課税されてしまいます。リタイアメントプランで運用している場合は、あるファンドから別のファンドに買い換えても、売ったファンドの売却益に対して税金が掛かりません。

非課税で運用する

税金の先延ばしではなく、今のうちに税金を払っておき引き出すときは非課税にしたい場合、Rothというタイプのリタイアメントプランを使います。Roth IRA、Roth 401(k)、Roth 403(b)など、Rothがつくリタイアメントプランはすべてこのタイプになります。

目的が明確である

リタイアメントプランは老後に使う資金を貯めるという目的がはっきりしているのも利点です。働いている間はさまざまな出費(例えば住宅購入や子供の教育資金など)があります。気をつけないとそういった出費でどんどんお金を使ってしまい、老後資金の貯蓄が後回しになってしまうことも考えられます。リタイアメントプランを使うことで、プランのお金は老後のためであり、他の資金とはっきり区別をつけることができます。

自ら強制的に拠出する

リタイアメントプランは職場を通して提供されるタイプ、つまり401(k)や403(b)では給与から天引きされてプランに拠出されます。天引きされるので手取りは少なくなりますが、多くの人は手取りで何とかやりくりするものです。積み立て期間で解説したようにリタイアメントプランは生活レベルを一定に保つための仕組みと考えられますから、手取りが少なくなってもやりくりするように努力することで自然とその仕組みの通りになります。自ら強制的に貯蓄(Forced Saving)をすると言えるでしょう。

職場にリタイアメントプランの制度が無い場合でも自分でIRAやRoth IRAなどで老後資金を貯める事ができます。給与からの天引きはされませんが、口座から自動引き落としで拠出することができます。給与が振り込まれる日に自動的に引き落としがされるようにしておけば同じ効果が期待できます。

制限

リタイアメントプランの目的が明確であることはまた、その目的以外では使わないようにするための制限があるということでもあります。

引き出しの制限

老後資金のためですので、歳をとる前に引き出すことは目的外です。目的外の使用を防ぐために、59歳半になる前に引き出すと一般的には10%のペナルティが課せられます。

収入条件

リタイアメントプランは労働収入の一部を老後資金にするためのものです。労働収入が無ければリタイアメントプランを利用することはできません。労働収入さえあれば利用することができるので、例えば学生の間でもアルバイト収入をリタイアメントプランに拠出することができます。例えばIRAには$5,000まで拠出できます(2010年の場合)。しかし労働収入が$3,000しかなければ、最大でもその金額までしか拠出することはできません。

この労働収入の条件には例外があります。これはとても大切な例外ですので、該当する人はぜひ注意して置いてください。夫婦のうち、一人だけが働いていて、もう一人は働いていない場合(Non-working spouse)、働いてないほうの配偶者は労働収入がなくてもIRAに拠出できます。リタイアメントプランは常に個人名義になります。夫婦共同名義にはできません。401(k)など、共働きであればそれぞれが加入できますが、一人しか働いていない場合、それが働いている配偶者だけの名義になるのはどうかと思います。Non-working spouseもIRAを持つことで、二人で共同で将来の準備をしていることになりますし、夫婦二人分の合計の拠出額の上限も増えます。

401(k)

401(k)の特徴

401(k)は一般企業に勤めている人が任意で拠出する事ができるプランです。このプランは勤めている会社が提供している場合のみ、拠出する事ができます。このプランの特徴は会社が従業員の出した額に応じてさらに拠出金を積み増し(match)してくれる事です*1。自分の勤めている会社がMatchしてくれる場合は、こんなにおいしい話はないので今すぐに拠出を始めましょう!

自分が勤めている会社がプランを提供してない場合やMatchを全くしてくれない場合はIRAなど他のプランで運用する事を考えましょう。また、401(k)は証券会社が管理会社として引き受け、投資対象(通常、Mutual Fund)を提供します。Mutual Fundの数が少ないなど、投資対象先の選択肢が少ない場合が多いようです。

雇用期間の制限

雇用期間の制限は、例えば採用されてから1年以上経たないと401(k)を始められない、あるいは3ヶ月目から始められるが雇用主の積み増しは1年目以降である、といったものです。働き始めた月によってはその年は全く拠出できない事もあります。そういった場合は他のプランにその年は拠出し、次の年から401(k)を始めるなど柔軟に対応しましょう。いずれの場合も、拠出可能になったらすぐに始めましょう。

拠出上限額

401(k)への拠出は法律で上限が決まっています。2007年の拠出上限は$15,500までとなっています。この金額はインフレに応じて毎年、調整されていきます。50歳以上の人はさらに加算拠出額(Catch-up Contribution)の$5,000を追加して拠出することができます。

法律としての上限のほかに会社が年収の何%という形で制限しています。例えば年収が4万ドルで会社の制限が年収の15%だった場合、拠出の上限は$6,000となります。この上限を超えてリタイアメントプランに預け入れたい場合はIRAやRothIRAなど他のプランも同時に拠出する事を検討します。

雇用主による積み増し(Match)

401(k)の魅力はなんと言っても自分が拠出した額に応じて雇用主が積み増しをしてくれる事にあります。雇用主によってMatchの仕方は違いますが、100%のMatchなら自分が$100拠出したら会社も$100出してくれる事になります。ただし、Match自体の上限は年収に対する上限と別に設定されている場合もあります。例えば年間拠出限度は年収の15%で、6%までは会社が50%のMatchをしてくれるとしましょう。もしこの条件で自分が6%拠出したら会社はその6%の50%=3%を出してくれます。合計、年収の9%の拠出になります。同じ条件で7%自分で拠出しても最初の6%分にしか会社はMatchしてくれないので、会社の積み増し分は3%のまま変わらず、合計10%の拠出になります。

Vestするまでの期間

会社が積み増してくれた分はすぐに自分の401(k)口座で運用が開始されますが、会社積み増し分が自分のものになるのはすぐとは限りません。会社の積み増し分が自分のものになる事をVestすると言います。例えばVestまでの期間が半年の場合、1月に会社が積み増してくれた分は(運用は1月に開始されても)自分のものになるのは7月になってからです。その前に会社を辞めた場合はVestしていない分は会社に返さなくてはなりません。Vestの期間が必要ない会社(積み増ししてくれた瞬間から自分のもの)や4分の1ずつ半年毎にVestしていくなど、Vestする期間は会社により違います。自分の会社のプランを確認してください。

*1:まったくMatchをしない会社や、その年の終わりに業績が良かった場合のみmatchする会社などもあります。

IRA

IRAとは?

IRA(Individual Retirement Account)は労働収入*1があり条件を満たせば誰でも拠出できるリタイアメントプランです。拠出したお金とその運用益ともに非課税で運用でき、59 1/2歳*2以降に引き出す場合はその時点でのIncome Taxが掛かります。つまり、収入の一部を非課税して、それを運用して増やし、将来引き出すときに課税される仕組みです。この方式をTax Deferred(納税の先延ばし)といいます。

Tax Deferredは拠出する際の税金を先延ばしにできるので、お金に余裕がないときに拠出する場合に、その年の税額を減らせる事がメリットです。例えば$2000しか資金に余裕がなくても、税額を減らせるのでその分を積みまして、$2540($540は減税分*3)を拠出するといった事ができます。拠出するお金があまりなく、少しでも多く拠出するための方法としてはIRAが向いています。

Tax Deferredのデメリットは、(当然のことなのですが)引き出すときに課税される事でしょう。非課税で運用して増えたお金も引き出すときに課税されるので、絶対額としては多く税金を払う可能性があります。それでも運用益が今まで課税されなかった分、複利で増えてるはずですから、リタイアメントプランの外で普通に運用した場合よりは最終的な取り分は多くなります。考えなければいけないのはリタイアメントプランからの引き出し額には所得税率が適用される事です。もし、株をリタイアメントプランの外で運用した場合はキャピタルゲイン税になります。所得のレベルにもよりますが、キャピタルゲインは15%で課税(1年以上運用した場合)されますから*4、多くの人の場合、所得税率よりも低くなるのではないでしょうか。引き出すときの所得税率が高い場合や、将来、税金がいくらになるか分からないのは不安である、という場合は後述するRothIRAをお勧めします。

拠出額

IRAへの拠出額の上限は下記のようになっています。これは一人あたりの上限額です。また、RothIRA(後述)と同じ年に拠出する場合は、IRAとRothの合計が上限を超えてはいけません。

IRAの拠出額の上限
50歳未満50歳以上
2007$4,000$5,000
2008$5,000$6,000
以降、インフレ率に応じて$500単位で増額

年収制限

年収制限は会社が401(k)など他の Qualified Plan を提供しているか、納税区分(Married, Singleなど)、配偶者の会社のQualified Planなどにより違ってきます。この年収制限を越えた場合、一部または全額が控除の対象でなくなってしまいます。控除の対象でなくても上記に示した上限までは拠出できますが、控除にならないのならTraditional IRAの意味はなく、RothIRAに拠出しましょう。IRAの年収制限は少し複雑なので概要のみをまとめておきます。

雇用主がリタイアメントプランを提供していない場合

自分の雇用主がリタイアメントプランを提供していない場合、年収に関わらず拠出した全額を控除できます。正確に表現すると「Active Participant」でない場合は年収の制限がありません。自分がActive Participantに該当するかは雇用主(HR=人事)に確認してください。

401(k)などが提供されている場合

勤め先が401(k)など「Qualified Retirement Plan」を提供している場合は、IRAへの拠出が控除できるかどうかは年収で制限されます。年収、正確にはModified Adjusted Gross Income (MAGI) がフェーズアウト*5(Phase-Out)よりも低ければ、拠出額の全額が控除できます。フェーズアウトの上限よりも多ければ一切、控除できません。ちょうどフェーズアウトの中になる場合は、割合に応じて控除額が決まります。

Singleの場合の年収(MAGI)
この額まで100%控除可能この額を超えると控除なし
2007$50,000$60,000

Marriedの場合の年収(MAGI)
この額まで100%控除可能この額を超えると控除なし
2007$80,000$100,000

一方の配偶者だけ働いている場合

配偶者の一方だけが働いている場合、働いていない配偶者(Non-working Spouse)のIRAを別に作る事ができます。収入(正確には MAGI=Modified Adjusted Gross Income)が$156,000まではNon-Working SpouseのIRAへの拠出全額が控除できます。MAGIが$166,000を越えると一切控除はできず、その中間なら割合に応じて控除できます。もし雇用主がリタイアメントプランを提供していない場合は二人合わせて$8,000まで(50歳未満のカップルの2007年の場合)控除できる事になります*6

年収制限について正確に確かめるためにはVanguardのこのページ を参考にしてください。下のほうにある「Traditional IRAs and Roth IRAs」を選択し、新しいウィンドウの3番目のリンク「Quick Facts About Starting a Vanguard Traditional IRA」をクリックすると控除になるケースを確定申告の区分(Filing Status)ごとに分けて説明があります。

*1:唯一の例外としてNon-working Spouseが拠出できる場合があります。
*2:なぜかリタイアメント関係の年齢制限は1/2歳という半端がつく事が多いです。誰か、理由を知りませんか?
*3:所得税率を27%で計算
*4:税率は2006年現在。キャピタルゲインの税率は頻繁に変更されるので、将来に渡ってこの税率とは限りません。また、所得レベルにより、5%の場合もあります。
*5:自分の年収が予想外に多くなってフェーズアウト範囲になった場合、拠出をなかったことにするなどして調整する必要があります。
*6:いずれの金額も2007年の場合

RothIRA

RothIRAとは?

RothIRAは1996年にできた比較的新しいリタイアメントプランです。このプランの特徴は何と言ってもTax Deferred(税金の先延ばし)ではないことでしょう。RothIRAに拠出するお金は、IRAや401(k)と違って所得控除の対象になりません。つまり、税引き後のお金として拠出します。ですから、拠出額に対する税金のメリットはありません。

拠出金が控除にならない代わりに、59歳半を過ぎてから引き出す場合に税金が掛かりません。さらにRothIRAで運用して増えたお金にも税金が掛かりません。所得税もキャピタルゲイン税も全く無しで引き出せるのです。つまり、今ガマンして税金を払えば、将来、良い事が待っていると言う、まさにFI的な発想です。リタイアメントプランの利点で説明した通り、税金が掛からずに運用できると言うのは将来、大きな差になります。

拠出額

RothIRAへの拠出可能な金額はIRAと全く同じで下記の表のとおりです。IRAと同じ年に拠出する場合は、IRAとRothの合計が上限を超えてはいけません。

IRAの拠出額の上限
50歳未満50歳以上
2007$4,000$5,000
2008$5,000$6,000
以降、インフレ率に応じて$500単位で増額

年収制限

RothIRAの年収制限はIRAに比べて非常に緩いものになっていますので、多くの人が拠出可能になると思います。独身者(Single)の場合はMAGI(Modified Adjusted Gross Income)が$99,000まで、既婚世帯(Married Filing Jointly)の場合は$156,000まで上記の拠出額をRothIRAに入れることができます*1。その額を越えると、Singleの場合、$114,000まで、Filing Jointlyの場合、$166,000まで割合に応じて拠出可能額が減っていき、これを越えると拠出できなくなります。

税金を今払うか、後で払うか?

IRAとRothIRAとの一番の違いは、税金を今払うか、後で払うかであると言えます。では、どちらがいいでしょう?答えはズバリ、RothIRAの先払いです。理由はいくつかありますが、一番単純なのは、運用して増える前に払ったほうが、運用して増えてから払うより得になる事が上げられます。

また、どちらの場合でも(キャピタルゲインでなく)所得税率で課税されますが、リタイアした後のほうが所得が多く、税率が高くなります。税率の低い若いうちに税金を払って、税率が高くなってしまった老後は払わなくて済む、というのが賢い運用方法です。

「えっ?普通はリタイアした後のほうが労働収入がなくなるので、所得は減るんじゃないですか?」と思った人、間違いです。いえ、間違えになるようにしましょう。つまり、FI的に将来のことを考えれば、リタイアする頃には不労収入が労働収入よりも多いくらいでないといけません。実際、リタイアする理由として労働収入がなくても十分に収入があるからという人は多いと思います。

Conversion

RothIRAは新たに拠出するだけでなく、既に拠出済みのIRAからConversion(転換)することができます。こうすることで、所得税を今払い、将来、非課税で引き出しできるようになります。

Convertするときの税金

IRA*2をRothにConvertすると、Convertした年に税金がかかります。例えば$3,000をRothにConvertし、税率が27%の場合は$810の税金を払わなければいけません。この税金はRothIRAにConvertした分とは別に自分で用意しなければいけません。上記の例では$3,000をConvertしていますが、そこから$810を引いて納税し、残りの$2,190をRothIRAとして運用するということはできません*3。このため、現金の余裕がない場合はConversionはお勧めできません。

Convertした年は納税額が増えますからその分、給与から多めに引かれるようにW-4を変更して提出する、あるいは予定納税を行う必要があります。すでに税金を多めに払っていればTax Returnで返ってくる分が減るだけで済むかも知れません。Convertする額に応じて納税額が足りないことがないように事前に計算しておきましょう。

年収制限

IRAからRothIRAにConvertする場合は、新たに現金を拠出する場合と違ってAGI(Adjusted Gross Income)が$100,000以下でなければなりません。Convertした分もAGIに含まれてしまいますので、例えばAGIがすでに$90,000の人は$10,000以上はConvertできません。

いつConvertするか

RothIRAへのConvertは「今すぐ税金を払って、後で課税されないようにする」というのが基本になります。IRAで運用する期間が長くなり運用益が増えるとConvertの際にその運用益に対しても課税されてしまいますから、同じConvertするなら早いほうがいいでしょう。

ただし、IRAからRothIRAへConvertするタイミングは重要です。上記に示した税金と年収制限の兼ね合いから、例えば今年は年収が高いが、来年はTax Bracketが下がることが分かっている場合、あえて来年になってからConvertした方が税金が少なくて済みます。また、IRAで運用していたStock Mutual Fundの価値が下がっている場合(かつFund自体を売るつもりはない場合)、価値が下がっているときにConvertすれば、低い価値に対しての税金を払い、将来の値上がり分について非課税で運用できるのでいいタイミングと言えます。

Recharacterization

IRAの価値が下がっているときにConvertするのが有利になりますが、Convertした後にさらに価値が下がった場合や、年収が増えて$100,000を超えてしまい、Convertの権利が無くなってしまった場合はどうすれば良いでしょう?

そのような時はConvertをRecharacterizeして、Conversionを無かった事にできます。Convertで課税された税金はRecharacterizationで戻ってきます*4。例えば$5,000のIRAをConvertして28%の税金が掛かった場合、$1,400になります。しかし、その後、価値が下がってFundの価値が$3,000になったとしたら、それをRecharacterizeすることで、$1400が戻ってきます。

IRAからConvertしたRothIRAをRecharacterizeした場合、結果として元に戻ったIRAを同じ年にさらにもう一度Convertしなおすこと(Reconversion)はできません*5。また年の終わりにRecharacterizeした場合は、IRAに戻してから30日以上経たないと、Convertはできません。年の終わりにRecharacterizeして税金を払わずに済むようにして、年が明けて30日以上経ってから(新しい会計年度として)Convertすることは可能です。上記の例で言えば、次の年に$3,000の価値でConvertすれば、税金は$840で済むことになります。しかし、Convert/Recharacterizeの手続きは時間が掛かるので、もう一度Convertする頃に株価が上昇していたら節税効果は無くなってしまいます。

*1:カップルの場合、結婚してなければそれぞれ$99,000までOKなのですが、結婚すると合計で$156,000までになります。このように結婚すると税金などで不利になる(Marriage Penalty)場合があります。
*2:他のIRAと区別するためにTraditional IRAと言う場合があります。
*3:納税のためであってもRothIRAとして運用されない金額はIRAからの引き出しとして扱われ、それ自体に税金+ペナルティが掛かります。
*4:同じ年にConversionとRecharacterizationをした場合は納税義務がありません。
*5:1998までは何回でも、1999年は1回だけReconvertができましたが、2000年以降はReconvertはできなくなりました。

プランからの引き出し

引出しのルール

401(k)およびIRAからお金を引き出すにはいくつかのルールに従う必要があります。このルールに従わないと10%のペナルティを(税金とは別に)払う必要があります。RothIRAはルールが違います(後述)。

上記のルールは主なもので、401(k)とIRAで少し違う部分もあります。例えば401(k)の場合は、Retireしなければ70歳半になっても引き出しを開始する必要はありません。

ペナルティを払わなくてよい特例

リタイアメントプランは退職後の収入を確保するための優遇措置なので、59歳半になる前に引き出そうとすると10%のペナルティが課税されます。しかし、いくつか特例があり、それに従えばペナルティを払わずに済みます(所得税は払う必要がある)。FIを目指す立場としては、この特例は本当にどうしても必要なときだけに使う、最後の手段と考えてください。リタイアメントプランは将来のためのものですから、それを先に使ってしまっては意味がありません。ここでは簡単に項目だけ紹介します。

401(k)の特例

401(k)は次のような条件に限って早期引き出しが認められます。

上記のうち、IRAへのRolloverは実質的にリタイアメントプランの種類を変えただけで使ってしまうのではありません。自社株の場合は、コストベース(購入したときの価格)で引き出すことができ、その株を売ったときにはキャピタルゲインで課税されます。つまり、所得税(キャピタルゲインよりも高い場合がほとんど)よりも低い税率になるので、有利になります。

401(k)からのローン

401(k)は上記の特例以外は(ペナルティの有無に関わらず)引き出すことができません。その代わり、自分自身にローンとして貸すことができます。借りているわけですから、利息をつけて401(k)へ返さないといけません。もちろん、返す先は自分の401(k)ですから、その利息も自分のものです。

ただし、この方法は家を買うなど、特別の理由がない限り使わないようにしましょう。利息は自分のものになるとはいえ、借りている間に増えるはずのお金がなくなる訳ですから、将来のためになりません。家を買う資金にする場合は、このローンの担保として家を扱えるか、確認する必要があります。家が担保になっていれば、利息は控除の対象になるからです。担保にできないのであれば、借りるべきではありません。

IRAの特例

59歳半になる前にIRAから引き出す際は、次の場合に限り10%のペナルティを回避することができます(所得税は課税されます)。

上記のいずれの場合も、将来の蓄えを使ってしまうわけですから、本当に緊急に場合に限られると思ってください。できれば、こういった状況でもIRAに手を付けないで済むように、傷害保険や教育費積み立てプランのようなものを利用すると良いでしょう。ただし、家を買う場合で、401(k)など他のリタイアメントプランにも拠出していて、かつ余剰資金がある場合、IRAを家を買うための資金作りとして(確信犯的に)利用するのなら、構わないでしょう。そこまでしっかり計算ができる人であれば大丈夫でしょう。

RothIRAからの引き出し

RothIRAは拠出が控除にならないので、引き出すときに所得税が掛からないのが特徴です。

RothIRAは分かりにくいのですが、自分が拠出した額と、その運用益を分けて考えればそれほど難しくありません。例えば$3000を拠出し、運用益が$300発生したとします。$3000はいつでも税金もペナルティもなしで引き出せます。

運用益(Earnings)に対しては、IRAとほぼ同じルールが適用され、基本的に59歳半になるか、上記の特例に該当する場合はペナルティなしになります。どの特例で引き出すかにより、非課税の場合と所得税が課税される場合があります。

5年ルール

RothIRAの運用益(Earnings)をペナルティなしで引き出すには59歳半になっていること以外に、5年ルールに従う必要があります。5年ルールとは、最初の拠出を開始してから5年以上経たないと、運用益の引き出しはペナルティが課せられるというものです。ただし、期間の計算方法は特別で、実際にいつ拠出しても、その年の1月1日に拠出を開始したと見なされます。例えば2002年9月3日にRothIRAに拠出しても、2002年1月1日に拠出したと見なされるので、2007年になれば5年ルールに通ることになります。

この5年ルールの計算方法はIRAからRothIRAにConvertされた分については適用されません。実際にConvertした日から計算されます。


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