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日米租税条約「議定書」いよいよ批准間近??

Max Hata
チョッとスクープみたいな話しがDCやNYCの法曹界で噂になっているのでFDIIの話しの真っ最中だけど、租税条約の批准に関して特番。

米国が他国と締結する条約は、憲法のArticle 2 Section 2の更にSubsection 2(2-2-2で覚えやすいね)に規定されている通り、行政府に締結の権限があり、したがって租税条約は具体的には財務省が当事者他国と交渉・締結する。条約の米国法体系における位置付けは、連邦憲法および連邦法と並ぶ最高の法規と憲法に規定されているので、かなりのステータス。Internal Revenue Codeとかの内国法と同列の立場にあり、条約が内国法を必ずしもオーバライドしないことから、後法優先という日本ではチョッと分かり難い優先順位に基づく判断が必要となる。

更に憲法の2.2.2(もう覚えた?)に規定される通り、条約が正式に効力を持つためには上院の3分の2多数で批准される必要がある。内国法が下院からスタートして法制化されるのに対し、条約に関して下院に物言う権利がないので、下院からしてみると少し悔しい存在。

ちなみに日本語では上院っていうけど、英語ではSenateで、これはもちろん古代ローマのSenetusから来ているけど、なぜか同じSenateでもローマバージョンは「元老院」。米国が名称を借用したくなるような統治制度を2000年前に確立させていた古代ローマは凄い。都市国家から領土を拡大し、帝政となり、その後崩壊していく過程は現在の国家のライフサイクルにも通じるものがありとても勉強になるし興味深い。テクノロジーがどれだけ進歩しても、所詮、人間のサガは今も昔も大差ないということなんだろうか。

米国憲法は、「We the People of the United States…」が「more perfect Union」を形成するために、賢人が過去の歴史・過ちから学び、知力を結集して策定した法律だ。洞察力に富む至上の法律と言えるけど、立派な憲法があっても「法の支配」がなければ、宝の持ち腐れ。独裁国家でも、聞こえのいい憲法を存在させること自体は可能で、それを法的に執行するメカニズムがなければ全く意味がない。法の支配の中でも特に重要なのが「三権分立(Separation of Power)」。立法府(議会)と行政府(Executive Branch)のSeparationはロシア疑惑関連でWilliam Barrとか良く争点となり、最近特に考えさせられることが多いけど、実は司法府、すなわち裁判所の動向も目が離せない。近年、大統領令が出ると訴訟になることが多いけど、本来、裁判所は立法府でも行政府でもない訳だから、大統領が大統領令を出す権限を逸脱していないかどうか、すなわち憲法上、大統領府に対して認められている権限内の行為であるか、という法的な検討にフォーカスするべきで、大統領令の内容そのものが賢いかどうか、という判断を加味する立場にはないはず。なぜかと言えば、賢いかどうかはそれを判断する者の考え方により異なるからで、本来、司法府はそのような視点を盛り込む立場にはないはず。

オバマ政権もトランプ政権も大統領令を乱発気味だけど、最近の司法府は、内容そのものが気に入らないとか、オバマ政策やトランプ政策が嫌い、というイデオロギー的な理由で大統領令を無効とするような判例が多く、しかも地方裁判所が全米有効のInjunctionを言い渡したり、Standingを未だ確立していない、よって訴訟を起こす立場にない、と思われる州が訴えを起こして、それが認められたり、所詮三権分立もそれを担当する判事たちの憲法順守にかかわる見解に左右されることが多く、せっかくの制度も最後はそれを司る人次第、という意味で限界を感じることが多い。この手の話しをし出すと本が一冊書けるので、いずれそのうちに。

で、租税条約だけど、ご存知の通り、上院議員の一人であるRand Paulが情報交換規定が違憲であるというような理想論で、反対し続けていることから、2009年以降10年間にも亘り、米国では租税条約はひとつも批准されていない。塩漬けになっている条約のひとつはもちろん2010年に二国間で合意済みの日米租税条約の議定書だ。なぜ、たった一人の上院議員が3分の2で可決できる条約批准をブロックし続けることができるのかは2016年に「日米租税条約改正は一体いつ発効?」という3回特集を組んでいるので、詳細はぜひそちらを参照して欲しい。要は他に切羽詰まった議題が多く存在する中、また上院議員はいつもDCに居る訳ではない中、各条約を議場で議論して3分の2の多数決で可決させる時間は到底なく、この手の承認は通常、「全員一致」の決議書で行うという点に問題がある。

で、ここに来て急展開があり得る状況になったのは、面白いことにRand Paulと同じケンタッキー上院議員で、上院多数党院内総務、というと堅苦しいけど要は「Majority Leader」のMitch McConnellが条約の批准が10年間滞っている点を問題視し始めたからだ。McConnellはどちらかと言うと無表情かつ冷徹にことを進めるタイプで、Cliff Simsの書物の表現を借りるならば「Viper」ということになるけど、地元ケンタッキー州民の利益のためには努力を惜しまないDCの実力者だ。ケンタッキー農民のためにFarm Billを通したり頑張ってる中、ケンタッキー州のとある酒造会社が「米国とスペインの租税条約の議定書が塩漬けになっていて不利益を被っているが、何とかならないものか」というような話しをMcConnellに持ち込んだらしい。McConnellがその話しを聞くまで条約批准がここまで滞っている状況を理解していたのかどうかは不明だけど、独力で条約批准を10年間も阻止し続けてきた張本人が同じケンタッキー州のもう一方の上院議員(上院議員は下院と異なり州の人口にかかわりなく、各州2名)だったという実態に唖然とした点は想像に難くない。

で、早速Paulに働きかけ、他の上院議員にもここ数週間、根回しを行ってるらしい。ただ、手順としてはSenate Foreign Relations Committee(上院外交委員会)というところがヒアリングを行い、そこで可決してから本当の上院の審理に回したり、と結構気の長い話。外交委員会はPaulの欠席時に一度可決を成功させてるけど、同じ年内に本院で可決されないと再度委員会に差し戻されるというルールがあり、もう一度、そこから始めないといけない。

条約の批准は当然、既に合意された条約に対して行うものだけど、批准の際に、条項を修正したり条件を付けることが認められる。Paulに賛成させるには、情報交換規定に関して何らかの条件を付けるというような奥の手もあり得るけど、条約だから米国が一方的に新たな条件を盛り込む訳にはいなかい。となると当然、条約締結相手国と再交渉の必要が生じる。しかも2009年当時から合意されてきた条約には、2017年の税制改正なんて全く想定されてない訳だから、そんな条約が後法優先で批准されてしまうことの影響も加味しないといけないだろう。時間が経てば経つほど面倒だね。CPA試験とかさっさと受からないと勉強しないといけない会計原則が増えるばかり、っていう悪循環みたい。う~ん、なんか時間掛かりそう。支払利息の源泉を0%にしたい方は利息の支払いをチョッと待ってみる?または逆に米国法人が米国不動産持分に当たるかどうかの判断が、今の条約が有利だったらさっさと再編とか売却とかしてみる?ここ10年で批准のモーメンタムは最高潮にあると言えるだろうから、価値はあるかもね。
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