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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「今日で可決から1年」

TCJAがトランプ大統領の署名により可決されてから今日2018年12月22日でちょうど1年。アニバーサリーを迎えて様々な思いが頭をよぎる。一年前、最終化された条文を急いで読んで受けた新税法のイメージと、この一年、解析をし続け、不明点が浮き彫りになり、とてつもない量の財務省規則草案が公表され、という進化(深化?)を経た結果今日抱いているイメージは結構異なっていると言える。

法人税引き下げ、米国から国外への販売・ライセンス・サービス提供に低税率を規定しているFDII、設備投資に対する即時償却、など、分かり易い恩典のイメージは確かにそのまま威力を発揮していて、悪いニュースは各社敢えて公表は控えてるんだろうという点を割り引いても、米国経済は基本的に好調に推移しているように見える。

昨日のWSJにも、税制改正一周年を記念して「再び競争力を付ける米国経済(America is Competitive Again)」というタイトル、「税制改正はホワイトハウスが狙った通りの経済・雇用効果を実現(The tax cuts of 2017 have boosted growth and job creation, just as the White House team intended)」というサブタイトルで高らかそこの効果を特集している。ちなみに当記事の著者は当時の国家経済会議委員長のGary Cohnなので当然ポジティブなトーンに終始しているが、米国において肌で感じるビジネスの動向と整合性がある内容だと思う。Gary Cohnの論調は説得力がある。ゴールドマンサックスの元社長だから、相当のやり手だろうし、そんな感じが滲み出てて力強い。ちなみに、最近は、彼が社長の頃、NYCやLVその他でお金使いまくってたJho Low率いる1MDB絡みのビジネスがアジアで始まってたって切り口でメディアに登場することが多かったけど、久しぶりに本道に返り咲いた感じの記事で健在ぶりを披露してくれた。

WSJの記事によると、経済成長率は2018年第三四半期までの9カ月通算3.3%(年率換算)で、これは13年振りの高成長率。トランプ政権誕生時に米国の経済成長率を3%台に戻すという目標を掲げた時点では、オバマ政権下の「New Normal」だった2%台を超えるのは無理というのが「有識者」の一般的な見方だった。たった1%じゃん、って思うかもしれないけど、米国規模の経済が、1%高い成長率を達成するということは、雇用、賃上げ、財政、等にとてつもなく大きなインパクトがある。

企業による米国回帰の動きも顕著しかも迅速で、500社を超える大手企業が、賃上げ、特別ボーナス支給、雇用拡大を発表し、600万人の従業員が何らかの恩典を享受しており、実に89%に上る経営者が税制改正の影響に基づき、従業員に対する報酬パッケージをアップグレードする予定だというサーベイ結果が出ている。経済が好調な状況で雇用環境も申し分ない。2018年に入ってから210万人の雇用増、失業率は3.7%と1969年以来のベスト記録。求人が失業者数より多い状況となり、賃金もアップ。2018年の賃金上昇率は3.1%と過去数十年で最高。低所得者層の賃金アップ率は更に高く4%を記録しているそうだ。経営者にとって頭痛の種は人材確保。

Capexは2017年比較で1,800億ドル(約20兆円)アップ、住宅関連以外の不動産投資は16%(1993年以来の高水準)、知的財産関連投資は10%(1999年以来の高水準)各々前年対比アップとなっている。税制改正のOpportunity Zone条項に基づく特定のエリアへの投資意欲も盛ん。

また、注目の海外からの米国への資金還流に関しては、前年同期1,280億ドルのところ、2018年の最初の3四半期で5,710億ドルを記録している。米国企業による海外子会社からの資金還流だけど、従来は四半期400億ドルが平均だったらしい。これが税制改正直後は一気に3,000億ドルに跳ね上がり、その後、500億ドルから1,000億ドルレベルに落ち着いてきた模様。資金還流のテクニカル面は後半チョッと触れたい。

でも法人税減税で、国家財政がマイナスになるので、税制改正はよくない、と言う声は未だに良く聞かれる。この点に関しては、政策決定時に国家財政に与える影響を加味するのは当然、とした上で、雇用、賃金水準がこれだけ上昇すれば、税収ベースの拡大に繋がる、また連邦政府が恒常的に赤字となっている主たる原因は、歳入が少ないからではなく、歳出が連邦政府の域を出る分野にまで拡大し、制御不能に陥っている点、としている。すなわち、いくら増税しても歳出をコントロールするまで財政赤字は解決しない、ということだ。

ポリシーや経済的な議論はさておき、テクニカルな面からは斬新なクロスボーダー課税およびその複雑さは特筆に値するだろう。法律が審議されている当時から可決に至るバタバタのローラーコースター期間に想定されていた新税制下のクロスボーダー課税に対するザックリとしたイメージは、米国もテリトリアル課税に移行し、その代わりに旧税制下で蓄積された海外留保所得は制度移行の代償(?)として低税率で一括課税、一部BEATのような特殊なBase Erosion対策が講じられ、またCFCが無形資産から超過利益を生み出している場合にはミニマム税が課される、とは言え基本的には海外所得は非課税、というような大枠だった。

法律可決後、間もない頃から、ちゃんと法文読み始めてみると、そんな生易しいものでないという発見に驚愕することとなる。制度移行で留保所得に一括課税された後、待ち受けている新制度は、語弊はあるけど全世界連結納税に近いGILTI。それに追い打ちをかける形でBEAT、Section 163(j)、Hybrid禁止(2日前にこちらも財務省規則草案公表)とこれでもか、って感じ。以前の全世界Deferralシステムと比べて、より厳しく、またコンプライアンス負荷が高いクロスボーダー課税制度になってしまった、という発見だ。

結局のところ、ヘッドラインだったテリトリアル課税を規定している100%配当控除の恩典を受けることが可能な事実関係は極端に少ない作りになっている。特に今後発生する海外所得に関しては、GILTIからシェルターされるCFCの有形償却資産の10%リターンと、複数のCFCを持つ米国株主が米国側のGILTI算定時に、CFCからロールアップしてくるTested Lossで、他のCFCからロールアップしてくるTested Incomeを相殺した際に、プラスのCFCのE&PにはTested Incomeでかつ米国株主側で超過利益となるはずの金額でも、GILTIがプッシュダウンされて戻ってくる際にGILTI「課税済み」とならない部分があるけど、これもテリトリアル課税の恩典を受け得る数少ない原資だ。ただ、優先順位的に、分配はまず課税済留保所得から行われていると取り扱われるから、留保所得一括課税の影響もあり、テリトリアル課税の恩典を受けることができる分配原資に辿り着くことがあるのかどうか、も怪しい。で、未だ規則案出てないけど、100%配当控除を規定している245Aも他のクロスボーダー課税に勝るとも劣らない複雑な規定だ。

上のWSJの記事にもある通り、以前よりは資金還流が税務的に容易になったのは事実。ただ、この点に関しても配当する側の源泉税の問題以外にも、CFCに対する米国株主側の株式簿価増減と課税済所得の還流にかかわるキャピタルゲイン認識の複雑な複合問題、等で一般に考えられるよりも資金に手が付けられない局面は多い。その際、CFCの株式簿価はかなりキーとなる検討なので、税務属性の管理に余り高い意識があるように見受けられない日本企業にとって、M&A時のTDDとかの局面も含めて、今後より高度な検討が強いられる分野となるだろう。

2017年の大統領選挙の結果、誕生が可能になったTCJA。もし選挙結果が異なっていたら米国経済も大きく異なっていただろう。ヒラリークリントンが大統領になっていたら、タダですら財産没収の域に達していると言っても過言ではない米国税制を更に高税率とし、キャピタルゲイン認識には6年間の保有期間を課したり、オバマ政権下でチョッと息が詰まるような「なんでそんなことDCの連邦政府に言われないといけないんだろう?」的な、本来主権国家同様の州政府権限をオーバーライドするような諸々の連邦政府発の行政規制がそのまま継続、または増大していただろうし。

という訳で、もう1年経ったというべきか、未だ1年しか経っていないと言うべきか。TCJAと寝食を共にしてきた身としては、TCJAが存在しなかった時代の税法や生活(大袈裟?)を考えるのは難しい。この法律の解析、適用は未だ始まったばかり。86年の税制改正がそうだったように、今後、何年、何十年も掛けて新たな「Body of Law」が構築されて行くことになるだろう。ロング・ジャーニーは始まったばかり。