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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(1)

Max Hata
本当に思った通りだった。何と昨日2018年12月13日の遅くに、米国財務省は待望のBEAT財務省規則案をまたしても「いきなり」公表。最近の財務省はヤバ過ぎで、ここ2週間強の間に、Section 163(j)、FTC、そしてBEATと、合計すると1,000ページ近い規則案パッケージを矢継ぎ早に公表している。財務省やIRSはCompetency毎にそればっかりやっている知見を集積した専門チームが多数あるからいいけど、一人で読んで理解する側はもうなかなか付いていけない。

「FTCはテクニカルなので乞うご期待」のはずが、BEATは日本企業の関心が高いので乞うご期待、に急遽変身せざるを得ない状況だ。ただ、救いとしてはBEAT規則案はFTCに比べると断然分かり易い。敢えて言えば、PEに帰属する所得の計算を、条約アプローチでPEを独立事業体のように見て、単体の資産、リスク、機能に基づいて行う際のInternal Dealingの部分の理解が難しかったけど、後は読み易い。とは言え、意外な結果となっている部分もあり、結構興味深い読み物と言える。まだまだ細かい点はこれから何年もオサライし続けないといけないけどね。

細かい点は話しているとキリがないんだけど、「Breaking News」的なハイライトは次の通り。

法文では適用法が不明気味だったAggregationルール。これは、BEAT適用法人となるかどうかの$500M売上基準、そして3%基準およびNOLを使用している年度のNOL加算調整額の決定の二つの目的に使用されるBase Erosion%を算定する際に、グループ合算ベースで算定しましょうっていう部分。この目的でのグループは、基本的には50%超の資本関係で結ばれる全世界法人グループは一社扱いっていうSection 52のコンセプトを基にしているけど、規則案では、Aggregationルールに含まれるのは米国法人および外国法人の米国申告課税対象となるECI部分のみと規定している。すなわち、ECIを持たない外国法人はグループ合算に含まれないし、ECIがある外国法人もあくまでECI部分のみが合算される。さらに、ECIではなく、PE条項を基に外国法人が米国申告課税を行うケースでは、PE帰属部分のみがAggregationルールのグループに属するように計算する。

次にNOL。まずは大方の予想通り、単年はプラスの課税所得で、これを過年度からの繰越NOLで全額相殺する場合、BEATの修正課税所得は、マイナスではなくゼロの通常課税所得にBase Erosion BenefitsおよびNOLのBase Erosion%相当額を加算することが正式に確認された。これは以前、上院財政委員会の首席顧問弁護士と直接話した時に、議会側の意図はそうだと聞かされていたので驚きはないけど、実際に規則を目の当たりにしてみるとショックもひとしお。規則案ではBEAT計算は課税所得の再計算ではなく「Add-back」方式だと強調している。

これはBad News気味だけど、この規定はあくまでも単年ではプラスの課税所得があり、過年度からのNOL繰越で課税所得をゼロにしているケースの話し。該当課税年度単年ベースで欠損金となる場合は、当然、加算調整もマイナス額を起点として行うことができる。

一方、NOL使用年度の修正課税所得算定時に、使用しているNOLのいくらを加算調整するかっていう部分は思わぬGood News。すなわち、一般にはNOL使用年度のBase Erosion%を使うんだろうな~、って思われていたんだけど、ここは一転(というか今までは全く不明だったんだけど)、NOL発生課税年度のBase Erosion%を使用するとされた。更にその結果、BEAT規定そのもののが存在していない2017年12月31日以前に開始する課税年度から繰り越されるNOLに関しては 、NOL発生年度にBase Erosion Benefitsという概念自体が存在しない訳だから、Base Erosion%はゼロとなると明記されている。Good times bad times you know I had my share…って感じ。ロック好きな人は分かるね?ちなみに今後発生するNOLに関しては、毎期、Base Erosion%が何%だったかってトラッキングして、使用時にはどの年度のNOLだから、ここはBase Erosion%がどれだけで、とか結構実務的対応は面倒そう。更に明記されてないけど、この目的では3%未満のBase Erosion%でもNOLはその分Taintしてるって取り扱うと考えるのが自然だろう。

後、目新しい規定としては、(旧)163条(j)(アーニングス・ストリッピング規定)に基づいて、外国関連者への支払利息が非適格支払利息として過年度から繰り越されているケース。新Section 163(j)の先行ガイダンスとして4月(だっけ?)に公表されていたNotice 2018-28では、旧Section 163(j)の繰越利息が外国関連者への支払いに基づく場合、新Section 163(j)で損金算入される時点でBEATのBase Erosion Paymentsに当ると明言していた。これは、 Section 163(j)は新旧共にそうだけど、未使用額は繰り越されるって言っても法的な立て付けは、将来年度に新規に支払ったり発生したりしていると取り扱うという点を基にした解釈。Notice 2018-28ではこれを文字通り適用して、繰り越されている支払利息は将来課税年度に発生していると取り扱われるのだから、そのタイミングでBase Erosion Paymentsになるのは当然としていた。それはそれで文言的には合理的な解釈ではあった。でも、今回の規則案では、将来発生しているというのは、あくまでも繰り越しメカニズムであり、実際には以前の課税年度に発生しているのだから、旧Section 163(j)に基づく繰越額は、損金算入タイミングでBase Erosion Paymentsにはならないとしている。財務省もなかなかリーゾナブル。

もう一つ、なんか意外だったし、そんなことまで良く考えるよね、って感じだったのが、Base Erosion Paymentsを特定する際に、「Payments」は現金である必要はないって始めて、その流れで、適格出資、適格清算、組織再編等を通じて、外国関連者から資産取得するケースもBase Erosion Paymentsになるっていう点。これらの取引は非課税だったり、ステップアップがなくて譲渡人の税務簿価を引き継いだりするけど、そんなことはBase Erosion Paymentsかどうかの判断には関係はないそう。税務簿価を引き継ぐのだから、Base Erosion Benefitsの算定は引き継がれた税務簿価を基にした償却額となるとしている。

その一方、外国関連者からの原物分配で資産を取得する場合には、対価が存在しないのでBase Erosion Paymentsとはならないって規定している。適格清算で資産を受取るとBase Erosion Paymentsで、Currentの原物分配だとBase Erosion Paymentsではないという結果になるけど、適格清算は株式を放棄してキャンセルする部分が「対価」だから、同じUpstreamの資産移管でもBase Erosion Paymentsだったりそうでなかったりするということのようだ。

日本企業には余り馴染みがないかもしれないけど、米国MNCにはBig DealのService Cost Method(SCM)にかかわるBase Erosion Payments除外規定。米国移転価格税制の規則に規定されるSCM要件に準拠している役務提供対価はBase Erosion Paymentsから除外されるって法文に書いてあるけど、SCM要件を充たしているもののチョッとだけマークアップがあったりするケースはどうなっちゃうの、って2017年12月22日に法律が可決した、その瞬間から悲喜交々の議論がさく裂していたし、政府高官の発言にみな一喜一憂していた。で、結果は、単純にSCM要件を充たしているけどマークアップが存在するケースは、マークアップ部分のみがBase Erosion Paymentsになります、って言う分かり易いもの。

あと、銀行関係で皆が注目していた一つの規定を最後に一点。米国の銀行と並び、G-SIBsと言われる外銀大手は、米国に中間持株会社を設立し、そこで米国連邦準備制度理事会(FRB)が規定する総損失吸収力(TLAC)最低基準を充たさないといけなくて、そのために内部TLAC適格債というものの発行が義務付けられている。で、義務付けられているのにそれにかかわる支払いが法文上はBase Erosion Paymentsになり兼ねなくて、それはないでしょ、って感じだったんだけど、規則案ではめでたく除外とされた。ただし、除外の対象はFRBの要件額に限定。また、このTLAC要件は米国法人のみが対象となるそうで、外銀の米国支店には適用がない。なんで、TLACに対するBase Erosion Payments除外規定も支店には関係がないんだけど、今後、他国もFRB同様の要件を規則化する流れになることが予想されるらしく、それら国外法に基づく支払いの取り扱いに関しては、金融業界等からのコメントを反映して財務省がその取り扱いを引き続き検討するとしている。

まだまだ細かい規定は山積みだけど、ハイライトとしてはこんな感じでした。金曜日の夜も更けて、そういえば今週のTime Reportアップデートしなきゃ。明日は土曜日で、またPullman Loaf(旧称Pain de Mie)買いにミッドタウン早朝ドライブかな。

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